伝統の「あさぎり」を愛称に、JR東海と小田急が新たな歴史を切り拓いた1991年・春。 小田急にとっては、新宿から沼津・そして西伊豆までをカバーする新しいチャンネルの開拓を。 JR東海にとっては、沼津からJR東日本を介さずに新都心・新宿へとアクセスする新ルートを。 JR東海がニュー「あさぎり」用に開発した371系は、まるで「スーパースタイル新幹線」を 新宿へとダイレクト・ダイブさせるかのような挑戦的なフォルムが話題を呼びました。 371系は1991年に登場後してから2次車の増備はなく、たった1編成7両しか存在しません。 まさにスペシャルトレイン、「リミテッドエクスプレス」とは彼のことかもしれません。 【371系は2012年3月をもって特急「あさぎり」号の運用から離脱。今後は団体専用車両として改造される予定です。】 |
3号車と4号車は2階建て車輌で、2階部分がグリーン席になっています。 2階の窓と1階の窓を縦につなげた様な大胆なエクステリアは、今でも沿線で注目の的! グリーン車のインテリアは座席も含めて、全体的に100系新幹線を意識した造りになっています。 まさに在来線版100系といった感じで、当然ながら座席はどっしりと安定感があります。 座面はかなり柔らかめで、フカフカ。 固めの座席仕上げが多い現在の車輌に乗り慣れていると驚きます。 しかし、実際に着座すると・・・座面の柔らかさに腰がズルズルと沈み込み、 臀部だけが異様に重心が低くなって、全体の着座バランスに難を感じます。 リクライニングはかなりの角度まで倒れます。 座面に沈んだ腰とバックレストにもたれた背中のバランスがちょうどよくなるには、 リクライニングを最大角度近くまで倒す必要があります。 3号車と4号車は2階フロアレベルでの移動が可能。 デッキをノーマルフロアレベルに設けると、グリーン席の定員が異常に少なくなってしまうための措置ですが、 グリーン席が満席になるのは小田急線内での通勤時間帯と、繁忙期のごく短い期間のみ。 ちなみにグリーン車/普通車とも座席の回転が大変重く、手動で向きを変えるのは一苦労。 新宿駅での折り返しを見ていると、全自動座席回転システムを導入しているようなので、 この機械システムの油圧の関係で座席回転が重くなっていると思われます。 |
センターアームレストには、オーディオサービスのコントロールパネルが備えられています。 電源が入っていない状態でしたので、今はもう使われていないのかもしれません。 登場時にあった液晶TVは撤去済み。センターアームレストの液晶テレビ収納口も封印されています。 車内の中ほどにあるマガジンボックス。乗車時には「沼津」や「西伊豆」の観光案内パンフレットが置かれていました。 このボックスの正体は、1階席にある非常用出口。この非常口部分の天井高さが2階部分の床面を干渉するため、 このボックスを設置して2階客室を違和感のないように仕上げています。 座席背面のマガジンポケットには「特急あさぎりメニュー」がセットされています。 車内販売品を客室乗務員さんが座席まで持ってきてくれるサービスで、 小田急ロマンスカーで行われているシートサービスを意識したものでしょうか。 しかし、オーダーしたドリンクがグラスなどで提供されるわけではなく、缶のままで出てきます(^_^; ちなみにグリーン車のドリンクサービスはなく、使い捨ておしぼりが提供されるのみ。 メニューを各座席に備えているからか、ドリンクサービスがあると勘違いする乗客がかなり多く見かけられました。 天井には読書灯とスポット空調に加えて、スチュワーデス呼び出しボタンが備えられています。 しかし、実際に客室乗務員さんは、車内販売のワゴンサービスなどで普通車を廻っていて、 グリーン車のサービスカウンタを離れていることが多いので、あまり実用的とはいえないようです。 |
普通車の座席はブラック&グレーで、グリーン車とはかなり趣きが異なります。 個人的な視覚では、この普通車のカラーリングは好きですね。 エッジの際立つなかにも不思議な柔らかさを放つこの座席は小糸工業製。 キハ85系「ワイドビューひだ」以来、JR東海の新型特急では御馴染みの座席です。 シートインプレッションは、キハ85系「ワイドビューひだ」同様になかなかの掛け心地。 普通車クラスの座席では、個人的にトップクラスの出来栄えではないかと思います。 バックレストに入った切り込みラインがほどよく体をホールドしてくれます。 座面も柔らかめですが、グリーン席のそれがズルズルと沈み込むのに対して、普通車はそのようなことはありません。 アームレストのレザー部分もギリギリまで貼られています。 テーブルは背面収納が基本ですが、向かい合わせにした時のために、窓框部に物が置けるよう幅広にしてます。 窓枠部分をはさんで向かい合わせにしても、ちゃんと小さなテーブルが用意されている、この周到さ! どうやらJR東海は新幹線の車輌より、在来線の車輌のほうがソフト面でしっかりしているようです。 JR東海では愛称を「(ワイドビュー)あさぎり」としていますが、その名に違わぬ眺望が約束されます。 その窓の大きさたるや、1,650mm×1,020mmサイズ。窓の下辺がアームレストよりもさらに下になるという状態です。 登場当時は車椅子対応席はありませんでしたが、「ワイドビュー」気動車への 車椅子席設置工事と時を同じくして、371系「あさぎり」にも設置工事が行われました。 もともと2号車のデッキ寄り席は、通路側のアームレストが跳ね上げ式で、車椅子からの座席への移動が考慮されていました。 しかし、近年は車椅子を座席脇に固定することのできる1人掛けの専用席を設置するのが主流となっていて、 「あさぎり」でもこれにならって、専用座席を設置することになりました。 「ワイドビュー」気動車が大工事だったのに対して、こちらはハイデッカーではないので、違和感なく仕上がっています。 グリーン席同様に全自動座席回転システムを備え、偏心回転式となっています。 |
2階建て車の1階部分は普通車で、2+1の席配列です。 6列しかないので、こじんまりとしたちょっとした個室のような雰囲気。 窓の幅がグリーン車と同じなので、ここに普通車のシートピッチ1,000mmを持ち込むと、 窓枠にぶつかる席が出てきてしまいます。 そのため、シートピッチをグリーン席と同じ1,100mmにしています。普通車としては破格のピッチ数値! 座席は床面から若干高い位置にセットされています。 2階建て車は2階部分で貫通しているので、1階席の奥は行き止まりになっています。 突き当たりは非常用の避難口になっていて、ドアの奥には外に出られる緊急用ハッチがあります。 独特な雰囲気とワイドなシートピッチ・・・使い慣れた小田急沿線リピーターの隠れ人気席となっています。 |
洗面台、トイレとも「JR東海の在来線特急」らしいつくり。 洗面台のカラン、シンク廻り、三面鏡の作りには、1990年台前半に登場した新型特急に共通する味わいがあります。 2号車は車椅子対応の洋式トイレと男性用トイレ、そして洗面台。(洗面台は車椅子対応にはなっていません) 5号車は和式トイレと男性用トイレ、そして洗面台。 和式トイレにもベビーベッドが設置されています。 |
グリーン車の3号車と4号車のデッキにはサービスコーナーが設けられています。 現在は、主に車内販売の基地として機能していて、「ミニショップ」的な役割はありません。 カウンター内には冷蔵庫やレンジ、コーヒーメーカーなどが揃えられていて、プチビュッフェとして機能できそうです。 371系が登場する時に、『何名かのスチュワーデスが乗務して、ハイグレードなサービスを提供します』と宣伝されていたので、 もしかすると、デビュー直後はこの設備を生かした手厚い人的サービスが行われていたのかもしれません。 ちなみに小田急線内でも、371系の「あさぎり」号はJR東海パッセンジャーズサービスが車内販売を担当しています。 |
先頭車(1号車・7号車)を除く中間車のデッキ寄りには、わずかな隙間にラゲージスペースが設けられています。 (グリーン車はデッキ寄りと貫通路寄りの2箇所に設置されています。) 御殿場線沿線にはゴルフ場が多いので、大きなゴルフバックが2〜3本収納できる幅と奥行きを持っています。 ただ、大型スーツケース級の大きな荷物になると・・・このスペースに収納するのはキツイかもしれません。 |
デッキから2階グリーン席への階段は横幅が1メートル以上のワイドサイズ。 おそらく日本中の2階建て車輌の階段では、ぶっちぎりの悠々サイズなのではないでしょうか。 階段脇にはひっそりと電話コーナーがあります。 最近は電話機が取り外される車両が多くなっていますが、371系では3・4号車ともまだ設置されていました。 グリーン車デッキの天井には「リラックス、デラックス、新『あさぎり』」と書かれた電照広告。 |
天下の「ロマンスカー」小田急への乗り入れを意識してなのか、先頭車最前列は展望仕様。 縦方向への視界には限界を感じますが、横方向にはかなりワイドなパノラマが開けています。 近年の万国博覧会のパビリオンでよく見られる球形スクリーンを連想してしまうのは私だけでしょうか。 運転台は、JR東海の新型車として初めて「ワンハンドル式マスコン」を採用したのが、この371系だそうです。 小田急のSSE車による「連絡急行あさぎり」号の頃は新宿−御殿場の全区間を小田急の運転士が運転していましたが、 現在の「あさぎり」号では、新宿−松田間は小田急の運転士が、 松田−沼津間はJR東海の運転士が運転を担当しています。 |