小田急の新ロマンスカー、愛称は「VSE−Vault Super Express(ヴォールト スーパー エクスプレス)」。 「Vault」とは「アーチ形の天井、ドーム型の丸天井」を意味し、客室空間はその名に違わぬ「まぁるい天井」が特徴的。 とにかく天井が高いので、連接車両特有の小さい空間というイメージがまるで感じられません。 さて、座席ですが、一般席はすべて窓に向かって5度の角度がつけられていて、外を向くかたちで設置されています。 「5度」というと大した角度ではなさそうですが、実際に座ってみると想像以上に外を向いていることが実感できます。 カップルやファミリーの乗客が「すごーい!椅子が窓のほうに向いてるよ!」と嬉々と話している光景が多く見られるところから、 たった「5度」とはいえ、どうやら数値以上のものすごい効果があるようです。 シートピッチは1,050mm。足元はかなり余裕が感じられます。(車端部の壁に向かい合う席のみシートピッチは850mm。) 小田急ロマンスカーの座席は、リクライニングしなかったり、しても角度が小さかったりするのが通例でしたが、 今回の「VSE」ではかなりの角度でリクライニングします。しかも、バックレストの傾斜にあわせて座面が後方にチルト。 しかし、座席のバックレストはクッション材の詰めが薄すぎで、まるで「板」にもたれているような感覚です。 リクライニングすると座面が後方へ沈み込む設計なので、背中方向へかかるチカラは大きく、30分もすると若干不快さを感じます。 ヘッドレストカバーには「VSE」の金の刺繍 が入り、こんなところでもさりげなくゴージャス感を出しています。 壁面にはハードメイプル製の折り畳みテーブル。このテーブルは座席を向かいあわせにした時だけ開けます。 この折り畳みテーブルの上部には小さなテーブル。サイズ的には車内でサーヴされるドリンク類のグラスがちょうどよく置け、 どうやら車内でのサービスをトータル的に煮詰め、設計図作成の数値の線引きの時点でそこまで考えられているようです。 窓の框部分にはキャンディなどの小物が置けます。実際に乗る利用者には大変嬉しい空間利用がなされています。 こんなところで私は「観光特急ロマンスカー、完全復活」を感じてしまいました。 |
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1988年登場の「HiSE」以来、その系譜が途絶えていたロマンスカーの「展望席」。 この「展望席」の復活こそが、この「VSE」の一番のアピールポイントでしょう。 運転席の直下にあるため、天井方向への窮屈さは否めませんが、 天井自体がレール方向にカーブ処理を施されて、吸い込まれるような、包み込まれるような不思議な感覚です。 展望席は2+2が4列で全16席。ノーマルレベルのフロアに4列並んでいるので、 3・4列目の席からの展望はあまり望めません。この点は「HiSE」のシアター型展望席のほうに軍配が上がります。 展望席も座席の回転は可能。なんとマクラ木方向にシートを向けた状態で固定した「ラウンジスタイル」にもできるそうです。 このラウンジスタイルは、1号車および10号車を貸切した場合にのみ対応しているとのことで、通常は見ることはできません。 展望席は全て真正面を向いて設置されていて、一般席の5度向きスタイルにはなっていません。 シートピッチは1150mmで、一般席の1050mmよりも広くなっています。1150mmはJRのグリーン車並みのピッチ。 車椅子対応席は8号車にあります。 後述の「デッキ」の欄で紹介しますが、8号車乗降口には収納式の車椅子スロープが搭載されています。 車椅子対応席には緊急用の「呼び出しボタン」と、車椅子固定用のベルトが設置されています。 この8号車客室は、天井にパンタグラフがあり、空調ダクトを備えている関係から、丸天井になっていません。 そのかわり天井に小さいながら天窓があり、ちょっと独特な雰囲気のある客室になっています。 天井方向に荷物棚は設置されておらず、妻面壁にコンパクトな荷物棚が設置されています。 座席周りの付帯設備もいろんな点で見どころがあります。 横方向に4メートルにも及ぶロングウィンドウも「VSE」のセールスポイントですが、 この長さを殺してしまわないような工夫が、ロールスクリーン式のカーテンに施されています。 最近の特急車に多いロール式カーテンを設ける場合、窓の縦方向にガイドレールを設けるのが普通でした。 しかし、この方式だとガイドレールが窓からの視界を遮ってしまう嫌いがあります。 そこで、「VSE」ではカーテンのガイドに金属製レールを使わずに、なんとワイヤを張りました。 細いワイヤなら窓からのワイドな視界を遮ることなく、ロールスクリーンの上げ下げも可能! 利用頻度によって切れたりしないのか、メンテは大変ではないか、手がかりとして掴んだ際に手が摺れたりしないか・・ 列車客室の設備としては初モノですが、今後どこまでこの方式が波及するか、ちょっと楽しみでもあります。 背面テーブルはアルミ製のラッチのデザインがオシャレですが、これの動きが硬すぎです。 ラッチ自体も、見た目にはいいのですが、実際掴んでみるとゴツゴツした作りなので、動かすたびに指先が痛く感じます。 また、壁面の折り畳みテーブルは、折り畳んだ状態へ戻す際の動きがスムーズでありません。 折り畳むにはヘンにコツがいるようで、指先の細い女性などはうっかりテーブルに手を挟まれる危険があります。 > 天井の荷物棚は、驚くほど収納力がありません。おそらく一番驚き、困るのは手荷物の多い女性の旅行者ではないでしょうか。 これは、ヴォールト天井を照らす間接照明のカバーの位置が荷物棚に近すぎ、棚の縦方向の高さを遮ってしまうのが原因。 デッキ仕切りドアの上には、最近すっかり御馴染みとなった大型液晶モニタによる情報表示装置がセットされています。 列車案内や季節のイベントの案内、箱根の旅館情報からおすすめの車内販売品などの案内が次々に流れます。 近鉄「アーバンライナー・ネクスト」や名鉄「ミュースカイ」のような、走行パノラマシーンの生中継は行われませんが、 「まもなく多摩川を渡ります」「晴れていれば富士山が見えます」など、車窓の見どころポイントガイドが表示されます。 液晶モニタその1 液晶モニタその2 液晶モニタその3 液晶モニタその4 液晶モニタその5 液晶モニタその6 液晶モニタその7 液晶モニタその8 液晶モニタその9 |
3号車には「サルーン」と名付けられたセミコンパートメント席が3区画あります。 フロスト調のパーテーションガラスで仕切られた各区画は、「あさぎり」などのRSE車の「セミコンパートメント」とは全く違う雰囲気。 「サルーン」という名前から、一般席よりも格が上でゆったりくつろげそうなイメージを連想させますが.... シートのバックレストはほとんど直角に近く、「くつろぐ」という空間からはちょっと程遠いです。 どちらかというと仲の良い友達同士で、ワイワイと賑やかにやりながら箱根へGo!という用途がお薦めです。 この「サルーン」の設置されている車輌は天井にパンタグラフが搭載されているため、天井構造が他の車輌と異なっています。 丸天井になっていない分、各区画の天井には天窓が1つづつ設置されています。 「サルーン」はボックス毎の販売になっており、知らない人と相席になることはありません。 「サルーン」の利用には「サルーン料金(個室料金)」+「乗車券」の購入でOK。 例えば、欲張りにも1人で「サルーン」を使っちゃうなんて場合は、 「サルーン料金:3,480円」+「乗車券:1,150円」で利用が可能です。(新宿−箱根湯本間の利用の場合) |
3号車と8号車には「ロマンスカーカフェ」と名付けられたカフェコーナーが設置されています。 今回の「VSE」では「展望席」と同時に、小田急ロマンスカーたる、あのサービスが復活しました。 それが「走る喫茶室」と呼ばれ、ロマンスカーを華やかな存在にしていた「シートデリバリーサービス」です。 カフェのクルーは小型の端末機を手に、各座席へ注文を受けて回ります。 端末機に入力された情報は、車内無線LANに載ってカフェのギャレーへと送られます。 カウンタ担当のクルーは注文の品を準備し、それをもう1人のカフェクルーが座席へと届ける・・というシステム。 注文のドリンクは、紙コップではなくオリジナルデザインのグラスで提供され、気分はまさに「走る喫茶室」! もちろんカフェカウンターでの対面販売も行っていて、ショーケースに飾られた商品やメニュー表を見ながら、 あれやこれやとお土産品やロマンスカーオリジナルグッズを選ぶのも楽しいひとときです。 ちなみに、カフェクルーさんのお話しでは、飲み物以外での一番人気は「VSEロマンスカー弁当」だそうです。 カフェコーナーの一角にはタッチセンサー式の情報端末ディスプレイが設置されています。 箱根の観光情報やイベント案内、歴代ロマンスカーの紹介などいろいろな情報を引き出すことができます。 情報ディスプレイその1 情報ディスプレイその2 情報ディスプレイその3 情報ディスプレイその4 情報ディスプレイその5 情報ディスプレイその6 情報ディスプレイその7 情報ディスプレイその8 情報ディスプレイその9 情報ディスプレイその10 |
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カフェコーナーに隣接して設置されている小部屋はかつての「喫煙ブース」です。 「VSE」はデビュー時から全客室・デッキとも禁煙となっており、このスペースのみで喫煙可能となっていました。 2008年3月からの小田急ロマンスカー全面禁煙化に伴って、現在はこのスペースも禁煙となっています。 |
サニタリーコーナーは3号車と8号車に集中して設置されています。 全体がゆるやかなカーブで構成されていて、デッキでトイレの順番待ち・・・のような侘しい雰囲気はかけらもありません。 サニタリは、洗面台・女性用個室・男性用個室・車椅子/オストメイト対応の「ゆったりトイレ」から成り立っています。 洗面台は紗生地のカーテン(暖簾)が掛かるオープンなスタイル。 横幅がかなり広く、カガミも巨大なものがドドーンと1枚設置されています。 手洗い用のシンクは小型の丸型。揺れる車内では水のハネがシンク内で収まりきれず、実用面では「?」な点が残念。 また、横に広くても奥行きが無く、カガミが2面鏡(3面鏡)でない点は女性利用者がどのように評価するでしょうか。 暖簾に使われている紗生地は、夏用の和服に使われる生地。冬には別の生地のものに取り替えられるのでしょうか。 (もし夏冬での素材替えを予定しているなら、季節感があって高く評価できますね) ちなみに洗面台の蛇口は冷水とお湯の切り替えが可能。その切り替えがちょっと凝ったレバー式になっています。 大きく通路側に張り出したカーブ壁面には車椅子でそのまま入れる「ゆったりトイレ」が設置されています。 「ゆったりトイレ」の表示のあるアルミパネルには「車椅子マーク」のほか、「オストメイト対応マーク」も。 駅や空港などのトイレではこのマークを見かける機会が徐々に増えてきましたが、列車内のトイレではおそらく初。 10両編成で総定員358人の列車にトイレは2箇所。 乗車時間が2時間を越えることは無いので2箇所でも必要数は足りているように感じられますが、 実際に乗車してみると、サニタリーコーナーでトイレの順番待ちがかなり発生しています。 3号車と8号車の中間にもう1箇所、コンパクトなサニタリスペースがあってもよかったかもしれません。 |
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デッキは床面に石畳が敷かれ、一面シルキーホワイトの壁にハードメイプルの手すりがアクセント。 第一印象は「列車の出入り口」というより、「高級マンションの玄関先」という感覚がします。 このへんの新しい空間デザインは、車輌デザイナーに建築家を起用しただけのことはありますね。 8号車は車椅子対応の設備が揃えられていることから、乗降口にもそれ対応の秘密が隠されています。 床の黒いパネルはスイッチをオンにするとパカッと持ち上がり、 その持ち上がったパネルの下からは、スルスルスルー・・とスロープが出てきます。 出てきたスロープはホームの高さとデッキの高さにあわせて曲がり、車体とホーム間の隙間を完全にカバー。 実際に車椅子利用者がこのスロープを使って乗車しているシーンを拝見しましたが、 悠々と乗り込んでいく様子から、この設備の隠れたすごさを感じられました。 ちなみに車内のあまり目立たないあちこちに「VSE」をデザインした「岡部憲明」氏のネームパネルが飾られています。 同氏は建築デザインが主たるフィールドで、代表作には「関西国際空港」の旅客ターミナルのデザインなどがあります。 鉄道車輌のデザインは今回が初めてだそうで、あの水戸岡鋭治氏が初のフルデザイン列車「787系つばめ」で魅せた 驚くような斬新なインパクトを、この「VSE」でも強く感じられます。 今後、岡部氏が車輌デザインの分野にも関わってくるのか、ちょっと楽しみです。 コックピットの展望席の直上にあり、収納式のステップを引き出して上がり下がりします。 始発駅発車前には、旅客機さながらに、運転士が乗車お礼のあいさつと終着駅の天候などを車内放送で流します。 コックピット内は文字通り「鳥かご」のような狭さ。 反則技ですが、新宿駅のVSE紹介パネルの中にあったコックピットの画像を2点、ここで紹介します。 |