国鉄分割民営化後、新生JR各社は競うように新型特急を開発し、華やかな特急車が日本各地で走り出しました。 そんな中、JR西日本は485系の改造車で「新タイプの特急登場!」を謳い、なかなか新型車の登場にまで至りませんでした。 そこには、私鉄との厳しい競合に晒されている近畿圏アーバンネットワークの充実にパワーを注ぎ込まねばならない現実があったのです。 他のJR各社がメイン路線で新型特急を投入し切った1992年、ついにJR西日本からドル箱特急「雷鳥」の新型車が登場します。 「681系」と形式付与されたその列車は、まるで弾丸のような形状。そして単純すぎるほどのカラーリングとボディ造型。 奇をてらう道を選ばなかった潔さの中には、シンプルさからくる分かりやすさと飽きない美しさが織り込まれていました。 そして、1995年には3年間の試験走行と臨時特急投入時の市場調査をもとに量産型が登場。 このプロトタイプ編成も量産車に合わせた改造工事を受けますが、その改造中に工場で阪神大震災が起こります。 被災しながらも全車が奇跡的に復帰を果たし、量産車とともに特急「スーパー雷鳥(サンダーバード)」として再び走り出しました。 その後、2001年には9両固定編成から6両基本+3両付属の分割可能編成へと再改造。 681系量産編成や後輩の683系と完全に共通運用化され、特急「サンダーバード」で北陸路を元気に駆け抜けています。 |
プロト編成は登場当時、グリーン車「クロ681」型は現在の大阪方ではなく、富山方の先頭車でした。 量産編成の「クロ681」は大阪方に連結されて登場したため、プロト編成も方向転換され現在の向きとなっています。 デビュー当初のグリーン席はパープルブルーのモケット張りで、客室は寒色系の装いでした。 衛星放送やビデオプログラムが楽しめる液晶テレビやオーディオユニット、車内販売コールボタンを備え、 頭上には読書灯とスポット空調があり、さらにヘッド部分には大型のピローも装備。 当時の新型特急で流行った「豪華系グリーン席」の、まさに「決定版」のようなグリーン席でした。 その後、量産車化改造でモケットやカーペットが量産車と同じブラウン系に張り替えられました。 ただ座席そのものは交換されず、量産車の座席と比べてどことなく無骨な「試作型」らしい雰囲気が漂っていました。 ちなみに681系量産車も、オーディオ装置や液晶テレビが搭載されて登場したので、 このプロト編成もそのあたりの装備は、量産化改造工事後も継続されています。 さて、現在のプロト編成のグリーン席。見てのとおり683系「しらさぎ」編成の座席に換装されています。 すでにオーディオパネルや液晶テレビは影もカタチもありませんが、他の681系量産グリーン車には装備されていない、 2枚展開の大型テーブルとペットボトルホルダーを装備しています。 「サンダーバード」のグリーン車利用でプロト編成と当たると、若干乗りドクといえましょうか。 シートピッチは登場当時から1,160mmとなっています。 |
グリーン席は座席が683系タイプに載せ換えられていますが、普通車のほうは客室ごと「試作」時代の雰囲気を残しています。 681系の普通車は「サーモンピンク」と「グレーブルー」の2種モケットで異なる雰囲気の客室を演出していますが、 このプロトタイプ編成の登場時は、ベージュがかったグレー系のモケット1種類だけの展開となっていました。 その代わり、妻面のデッキ仕切り壁を「ワインレッド」と「スミレ色」の2色に設定し、 通路床面のセンターラインもピンクトブルーの2色を用いて、雰囲気の異なる客室演出としていました。 現在は、シートモケットが単色から量産車と同じ2色設定となっていますが、壁の2色設定もそのまま残されているので、 特に「サーモンピンク」の客室の派手やかさは量産車には無いものです。 比較画像を多めに挙げましたが、座席そのものは見てのとおり量産車とは違う、試作時代のものを継続装備しています。 まずすぐ目に付くのが背面収納テーブルの大きさの違い。 そして、バックレスト腰部から立ち上がるクッション彫りのエッジの有無が挙げられます。 量産車のほうは全体的にシャープな作りで、クッションの詰め方にもメリハリが付けられていますが、 プロトタイプのほうはややボッテリした感があり、どちらかというと485系の“R55系シートJR進化バージョン”といった感じ。 実際の乗り比べでも、量産車のほうは体全体がフィットして、カーブを高速で駆け抜ける時もしっかりホールドされますが、 プロトタイプのほうは腰から背中にかけてぎこちなさがあり、カーブでは体が振られるようなフラつき感が否めません。 |
ほかにも細かい点で量産車とは異なるところが、客室のあちこちに潜んでいます。 車椅子対応席は、量産車では車椅子固定ベルト内蔵なのに対し、プロト編成ではヒモで固定する古典的なスタイル。 天井荷物棚の下にある補助照明は、量産車では細かい柄をあしらっているのに対し、プロト編成では柄なしで真っ白。 電光情報表示板は、量産車はプラズマ式の8色発光タイプですが、プロト編成は683系と同じLED3色発光タイプ。 ちなみにプロト編成の電光表示板は、現在のものとは若干形状が違うものの、登場当時も3色LED表示式でした。 デッキ式仕切り壁の通路ドアも動作が異なっており、量産車は自動ドアですが、プロト編成は683系と同じタッチ式に。 全体として、プロト編成は「試作型を残しつつ、そこに681系と683系をミックスした」ようなモノへと改造されています。 どちらかというと、やはり改良に改良を重ねて、吟味の上に登場した量産車のほうに乗り心地は軍配が上がります。 ただ、試作タイプゆえの特異な雰囲気、量産車よりハッキリ聞こえるインバーター音、少数派に出会えた優越感などなど、 「マニア」にとっては量産車に当たるも、ちょっとばかり嬉しいのが“プロトタイプ”なんですよね。 |
国鉄時代の「雷鳥」号には食堂車が、また国鉄末期にはビュッフェのある和風お座敷グリーン車「だんらん」が連結され、 JR化後に登場した485系改造の「スーパー雷鳥」にはサロン・カフェテリアカーが連結されたりしてきました。 なにかしら共食スペースを組み込んでいた「雷鳥」号。この新型車にも「プチ・カフェテリア」が設置されています。 6号車(登場当時)の車端部に小ぶりの設備ながらも、コーヒーメーカーや電子レンジ、アイスストッカーを備え、 またグリーン席の呼び出しコールにも対応していたこの「プチ・カフェテリア」。 量産車にもこの設備は引き継がれましたが、683系に合わせた改造時に撤去され、車販基地と車掌室に姿を変えています。 |
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JR西日本の新型特急車は、サニタリースペース周りに共通した雰囲気を持っていますが、 この681系プロトタイプのデザインが原点であり、またこの時点ですでに完成されたものとなっています。 セラミックのようなタイルを敷いた個室内など、ほぼそのまま量産車へと引き継がれています。 そんななか、量産車では採用されなかった試作編成だけに見られる部分があります。 それは洗面台の「スライドスクリーン」。カーテンではなく、カスリ柄の入った半透明のガラスを引き出して通路仕切りとしています。 しかし引き出す時に重さがあるのと、ガラガラガラ・・・と音を立てるのがスマートでないこと、 そして水周り設備なだけにガラス支え部分の腐食が激しく、これらの点から量産車では普通にカーテンを装備しています。 また、洗面台カガミのスキマ脇から照明光をこぼす間接照明は、量産車ではカガミ内蔵照明にデザイン変更されました。 デッキまわりの直線的でベージュで彩られている点は量産車にも引き継がれていますが、 試作編成には、横方向に入ったスクエアドットのラインポイントがそのまま残っています。 流線型の先頭車は、運転席脇の窓からコックピットの内部がよく見えます。 ちょっと覗いて見ると・・・さりげなくスピードメーターが200Km/hまで刻まれています! ちなみに、681系はこの試作編成落成時から最高速160Km/hでの営業運転を目標に掲げています。 この高速運転は北越急行ほくほく線を走る特急「はくたか」(681系ホワイトウイング編成)で現実のものとなりましたが、 これより上の速度での運転はスペック的に可能ながら、トンネル内での耳ツン対策(客室の気密化)などの観点から 現在の160Km/hが限界となっているそうです。 |