小田急電鉄の箱根行き特急の歴史は、このSE車登場よりもずっと昔の1948年(昭和23年)から始まります。 その後、幾度かの特急専用車の登場で売店カウンターの設置・転換クロスシートの搭載などを経ながら SE車へと繋がる、そして現在の「VSE」へと受け継がれるインテリアベースがカタチ作られていきました。 「ロマンスカー」の愛称は「ロマンスシートの並んだ電車」というところからきているのは有名な話ですが、 この愛称は小田急電鉄が名づけたものではなく、世間の中から自然発生的に生まれ、 いつしか「箱根行き特急は、ロマンスカー」という認識が、利用者の間に定着していったものです。 「ロマンスシート」とは昭和30年代に流行した映画館や喫茶室にあったペアシートのこと。 このSE車に搭載されている2人掛けシートがまさにその「ロマンスシート」そのものです。 今ではこのような2人掛けシートが特急車輌に搭載されるのはごく普通のことで、 他タイプの座席が用いられるほうが珍しいくらいですが、 このような現在のスタイルの礎を形成したのは、このSE車が最初といえます。 現在、海老名で静態保存されている編成は新宿方2両が登場直後の流線型ボディに復元されていますが、 車内は全てが連絡急行「あさぎり」で引退した時のSSE車の時のインテリアのままで保存されています。 さすがに往時の座席や備品類は現存していなかったのでしょうね。 車輌保存の条件もよく、人の手が触れる機会もごくごく限られていることから、車内の保存状態はパーフェクトに近い状態。 座席に腰掛けてみると、スプリングがよく効いた弾力性のある座り心地が体感できます。 クッションの柔軟さも現代の硬め指向の座席に比べるとむしろ新鮮で、ちょっと低めの着座位置に時代を感じます。 座席はリクライニング機構を備えておらず、純粋な「回転クロスシート」。 座席の回転は、座席台座にあるペダルを踏んでまわすという一般的な機構になっています。 |
座席付帯設備、座席回りにも見逃せない小さな役者達が隠れています。 灰皿は全席に装備。当時は現在ほど「喫煙」に対する風当たりは強いものではなかった証拠ですね。 「灰皿」と書かれたプラスチック製の取っ手を引くと、中からアルミ製の灰落としのポケットが現れます。 折り畳みテーブルは、どうやら比較的近年に取り付けられもののようで、 私の目が節穴なのか、4代目ロマンスカー「HiSE」のそれと全く同じもののように見えました。 テーブルの影には「栓抜き」があります。瓶コーラでも持ち込んで乗り込むのが当時の旅のスタイルだったかも? 天井照明は照明カバー付きの連続直接照明。 当時は特急専用車でも蛍光灯を剥き出しで設置している車輌が多かった時代に、 このグローブカバーが装着されているだけで、ずいぶんと車内がスマートに見えたのでしょうね。 荷物棚は、天井方向にあまり余裕がないので収納力に優れているとは言い難いようです。 帽子掛けは3つ叉スタイル。 カーブラインに遊び心が見られる点に、当時のロマンスカーが100%レジャー指向であったのが分かるようですね。 |
低重心のボディで連接台車を採用しているので、客室からデッキにかけては全車両でこのようなスロープが形成されています。 最も連結部寄りとなる席とその次の列の席を合い向かいにした時、ビミョーな高低差があり、ちょっと面白い雰囲気。 鉄道友の会による、その年の優れた車輌に贈られる「ブルーリボン賞」。 その記念すべき第1回受賞車がこのロマンスカーでした。 (実はSE車の栄誉を称えるためにブルーリボン賞が設立された、というのが通説ですが) 受賞記念プレートは、現在の円形のプレートとは異なり、シンプルなデザインです。 このプレートは、3021と3025の運転室と客室を仕切る壁の上部に掲げられています。 |
ビュッフェコーナーは、客室とは簡単なパーテーションで区切られているだけで、 「客室の一角にビュッフェカウンターがある」という感じです。 現在活躍している「VSE」や「LSE」のビュッフェコーナーと比べると、この「SE」のはとてもコンパクトな造り。 ステンレス剥き出しのカウンターや、最近はあまり見かけなくなった蛇口など、どこをとってもレトロな雰囲気。 |
サニタリーコーナーも客室とは仕切られている雰囲気はなく、客室内に一体化しているようです。 個室は和式個室と男性用個室がそれぞれ1箇所ずつ。5両編成でこの設置数はちと少な過ぎるような・・。 車内公開時はさすがに「トイレ」として機能していませんが、ドアから中を覗いてみると・・・これが激狭! ちなみに洗面台は個室内にビルトインされており、独立した洗面コーナーはありません。 |
全車両、「デッキ」というものが客室から独立しておらず、客席のすぐ目の前に乗降ドアがあります。 現代の特急車輌に乗り慣れていると、なんとも奇異な光景に見えますが、当時の特急車とはこうしたものだったようですね。 乗降ドアのデザインがこれまた可愛らしいカーブラインを描いており、昭和のよき時代の絶妙なデザイン。 このドア形状に「ロマンスカーを感じる」という“おぢさま”は多いのではないでしょうか? 連結部分の幌で覆われた部分は、ちょっとした「ゲート」のような造り。 連接台車を採用しているロマンスカー、この渡り部分のデザインも抜かりない仕上げをしているのは一種「伝統」ですね。 |
運転席は意外と広々としています。運転席直後には乗降用ドアがないので、緊急時の乗客非常口も兼ねているのかも。 運転席と客室は窓ガラスで仕切られているので、前方展望はバッチリ。現在の「RSE」に通じるスタイルの展望席です。 運転士さんが座る椅子は固定式ではないのですが、お話によると元々からこういう造りだったそうです。 |