東海道新幹線に新型車両が登場するというのは、世間の関心を集めるエポックメイキングな出来事。 歴代の車両が必ずそうであったように、この「N700系」も同様に、いやそれまで以上に注目を惹いてのロールアウトでした。 まさに“鳴り物入り”でのデビューにふさわしく、ハード面では速度向上・車体傾斜・環境への配慮と新機軸を満載。 そして乗客が直接触れるソフト面でも、新幹線新世紀時代の幕開けにふさわしいハイクオリティな空間へと進化しました。 対抗する航空各社のサービスプレミアム化に、新幹線ならではの利便性にグレードアップしたアメニティを備えての真っ向勝負。 メガロポリスを貫く“真っ白な矢”は、主役の座を射止め、すでに次への進化を見据えているかのように走り出しています。 |
100系→300系→700系・・・と進化を続けてきた東海道新幹線。新型車が登場する度にハード面の向上は先進的なものがありましたが、 残念ながらソフト面−こと座席や付帯サービスについては、正直進化のない、目新しさに乏しい感じは拭えませんでした。 しかし、今回のN700系は違います! 「グリーン車=上質空間」の原点をしっかりと守り抜きながら、驚くべき進化を遂げています。 「シンクロナイズド・コンフォートシート」と名付けられた新開発の座席から客室全体まで、その全てが「美しい」。 特に700系で感じられた、座席と空間と照明のアンバランスさは、もうすでにそこにはありませんでした。 客室内の雰囲気からシートファブリックの細かなところまで、客室全体でのコーディネイトがよく計算されていると実感できます。 今回のグリーン車の一番の目玉は、やはり「シンクロナイズド・コンフォートシート」と大々的に宣伝された、シートそのものです。 リクライニング時に座面がチルトして、後方へと沈む機能が搭載されています。 この機能自体は、JAL「クラスJ」や近鉄「ゆりかごシート」などで先鞭をつけていて、斬新な機能というわけではありませんが、 座席と体のフィット感、座面チルト時の無用な滑り感のなさ、そしてスムーズな連動はそれらの先駆シートを大きく超えました。 リクライニングボタンを軽くレバーするだけで、滑らかに背面が倒れ、座面が沈んでいくのは、クセになるような快感すらあります。 このチルト機能以外で、私が「おっ!?」と驚いたのが、座面クッションの座り心地の良さ。 ズブッと沈んだり嵌ったりすることのない、低反発感のある張りの良さは、これまでに体感したことの無い感覚です。 これは座面クッションが、それまでの「ウレタン」一層構造から、様々な素材を組み合わせた3層構造が関係しているようです。 乗客が直接座る面を上から「ウレタンクッション」「樹脂バネ」「金属バネ」で構成されていて、 特に際立って実感できる低反発感は、中間層に仕込まれた「樹脂バネ」の働きによるところが大きいようです。 近鉄アーバンライナーの「ゆりかごシート」で見られた、チルト機能と肘掛の破綻したリクライニング・バランスも、 N700系では完璧なホールド・バランスを完成させていて、ゆったりと肘掛に腕を乗せ、シートに身を任せることができます。 |
車内をよ〜く見回すと、N700系のグリーン車では「和」ゴコロを持たせたファブリックがあちこちに隠れていることに気が付きます。 天井の照明カバーは「和紙」のような風合いを持っていますし、窓周りの化粧板にはゆるやかなエッジを描くカスリが入れられています。 さらに床のカーペットも、単純なブラウン一色のものではなく、市松模様を複雑にしたような細かな模様が入っています。 ここ数年間のうちで乗ったグリーン席やスーパーシートの中では、間違いなく一番の居住性を備えたアッパークラスシートです。 100点満点を差し上げたいのですが・・・・若干気になった部分がちらほらと。。。。。 ★リクライニング戻しの際、後ろの席の人が広げている背面テーブルに若干の振動を与える。 ★フットレストを展開状態から収納状態に戻す時の音が大きい上に、前の席にかなりの振動を与える。 ★同じくフットレストですが、両面とも布地張りなので、収納状態でも靴で足を載せるのが躊躇われる。 いずれも些細なことですが、完成されたN700系シートなだけに気になってしまった・・・というのが本音かもしれません。 ちなみに現在、JR東海では線路沿いにIPS接続中継ポイントを設置し、車内にも無線LANを走らせる構想を具現化中。 2009年春頃には、東海道新幹線車内でのインターネット接続サービスが展開される予定です。 これにより、N700系の存在感はさらに輝きを増すことになるでしょう。 |
普通車は、700系と似た明るいブルーのモケットで、爽やかで軽快な雰囲気を持っています。 こと普通車の場合は、先代と比べると進化の無い、あってもわずかなレベルアップ、さもなくば退化しているということが多いのですが、 N700系では、グリーン車同様に普通車でも700系からグレードアップされたのが目に見えて分かる仕上がりとなっています。 いきなりここから紹介するというのもなんですが、窓側席の足元(車端部席では前方壁面)にモバイル用コンセントを装備。 さらに背面テーブルはA4サイズのノートパソコンが置けるようにと、大幅なサイズアップが計られていて、 普通車車内でもビジネスシーンを強力にサポートする環境が整いました。 シートそのものも、シートサイズの拡大が図られおり、これまでは3人掛け中央のB席だけが幅広サイズとなっていましたが、 N700系ではB席以外の席も全て10mm拡大。「わずか1センチじゃないか」と思われるかもしれませんが、リピーターの多い東海道新幹線。 その“わずかな”サイズ拡大の実感は、リピーターの方々によって判断されるのではないでしょうか。 座面クッションは、グリーン席同様に複合バネなどを組み合わせた3層構造。 軽量化から来る下からの突き上げ感を和らげるのと同時に、お尻にもやさしい座席となっています。 天井の荷物棚は、キャリーバッグを持つ乗客が近年増加しているのに対応すべく、荷物棚のサイズを拡大。 標準的なサイズのキャリーバッグを難なく、はみ出すことも無く荷物棚に載せることができるようになりました。 |
サニタリーコーナーはデッキの雰囲気と共に、まるでホテルのパブリックスペースのような雰囲気に。 特に洗面台の美しさはため息が出るほどで、丸型のシンクと電球色の照明と凝った照明器具が織り成す雰囲気は絶妙な上品さ。 トイレは全て男性用と洋式個室となり、東海道新幹線で初めて最初から和式個室を備えていない形式となりました。 11号車には、車椅子対応の大型多機能サニタリーを設置。ダイナミックな曲面を描く壁面は圧巻です。 このトイレはオストメイト対応にもなっており、これは新幹線車両としては初の設備。 |
300系や700系のデッキスペースは、どこか車両開発から置いてきぼりのおざなりな感じがしたのですが、 N700系では抜かりなく、「新幹線の車両は進化した」と感じさせる空間へと生まれ変わっています。 グリーン車・普通車とも、デッキは落ち着いたアルミ調のパネルで覆われていて、照明はスポットライトに。 特にグリーン車のデッキは壁の角継ぎ目になる部分に木目カバーをあしらい、冷たさや視覚的な圧迫感を軽減。 さらに、ブロンズ調の壁面はそれ自体の色は濃くないのですが、電球色のスポットライトを当てることで、 ブロンズカラーの持つ落ち着いた深みとアバンギャルドな明るさ・・・・一見相反する雰囲気を見事に表現しています。 連結面に外周ホロを装備したことで、デッキの静粛性が増したことも話題になりましたが、実際、とても静かです。 また、デッキに限らず車内全体での各種ピクトグラムが大型化していることにより、誰でも一目で情報をキャッチでき、 新幹線という日本を代表する公共交通機関で、ユニバーサルデザインが完成されたことは、ちょっと誇らしさも覚えるかも。 全てのデッキ乗降ドアの上部には、防犯カメラが設置されています。 車内セキュリティの向上を目指したものらしいですが、カメラで撮影された映像がどのように使われるのかなどは、 JR東海からは公表されておらず、デッキにいると「監視下にある」ような不気味な視線がちょっと感じられます。 言うまでもありませんが・・・ビュッフェやサービスコーナーといった共食設備は、編成内にはありません。 ソフトドリンクの自動販売機は、6号車と11号車の2ヶ所と少なめ。乗車前の購入をおすすめします。 |
N700系では「喫煙車」というものが存在しません。1号車から16号車まで全席禁煙に踏み切りました。 ただ、長時間乗っていると「ちょっと一服」と吸いたくなる愛煙家の要望を切り捨てるようなこともしないがN700系。 編成中4ヶ所(3・7・10・15号車)に、合計6室の喫煙ルームを設置しています。 強力パワーを持った最新排煙装置や、新開発の光触媒脱臭装置を惜しげもなく喫煙ルームに投入。 さらに出入り口はタッチセンサー式での開閉とするなど、完全分煙・受動喫煙防止を徹底的に考えた設備となっています。 私はタバコを吸わないのですが、この喫煙ルームの内部を覗いてみると、そこは侘しい孤立空間ではなく、 未来的な美しい空間に仕上げられていたことには、他人事ながら嬉しくなってしまいました。 |