近畿日本鉄道 21000系 アーバンライナー



1988年1月・・・近鉄21000系「アーバンライナー」ロールアウト。
今日の鉄道復権へのファーストステップとなる小さな息吹が芽生えた瞬間。

長年の「近鉄特急=2階建てビスタカー」のシンボリックイメージを完全にフッ飛ばすほどのその存在感。
極限まで煮詰められて生まれた客室空間のインテリアは、「100系新幹線」をライバルの念頭に置いた産物。

翌1989年から始まった新型特急誕生ラッシュの根底には、常に彼の姿があったのではないでしょうか。


※※※ 現在21000系「アーバンライナー」は全て「アーバンライナーplus」に改装され、ここで紹介するインテリアの車両は現存しません ※※※


−21000系 Urban Liner −コンセプト−
21000系 Urban Liner
開発コンセプト : ニューシンボル・ニューベーシック・ニューアビリティ
ベース : クリスタルホワイト
窓周り・裾部 : フレッシュオレンジ







デラックスシート


「アーバンライナー・ネクスト」をシートインプレションでコキ下ろした後ですので、ここで「初代アーバンライナー」を誉めると、
『新しきを叩いて、古きを持ち上げるってのは簡単なことなんだよな』とか思われそうですが、あくまでも率直な感想ですので・・・。

私の「アーバンライナー」への初乗車は2004年。この時点ですでに登場から16年が経過しているのですが、
正直言って、これほどまでに素晴らしいものに出会えるとは思ってもいませんでした。
この16年でたくさんの新型車両が生まれ、その中にもすでにリニューアルを迎えているものも少なくない中、
登場当時からのままの姿で、充分「今」に通用するアコモデーションは驚くべきことです。


まず、車内全体の雰囲気を作り出すカラーコードからして絶賛モノです。
「デラックス車向け」というと、発色を抑えながらも華やかさが欲しいという相反する条件が求められる傾向にあるようですが、
この「アーバンライナー」は見事にその条件を満たしています。
客室側面を覆う化粧板はオフ・グレーで決して明るめではないのですが、補助蛍光照明によってホワイティシュ・グレーに発色。
さらに白熱灯色のダウンライトによって、まるでガス灯のようなオレンジが灯って派手やかでない明るさを作り出しています。
シートモケットも赤めのローズブラウンを使いながらも、ブルーとシルバーを織り込んで全体の色を抑えこむという凝った手法。


特に感心したのは、バックレストの造り。座面に近いほうから上方に向けて窄まる「三角形」に近い形なのですが、
腰・肩・頭の3点部でバックレスト幅が身体にフィットするので、特にハイバックシートで頭部に感じるスカスカ感がありません。
最も幅が狭くなるヘッドレスト部は左右が迫り出したスタイル。
この部分が見た目以上に“プライベート感”を出してくれ、居眠り時にもストッパーとなって頭がフラフラゴロゴロとなりません。

リクライニングは、座席のバックレストの傾斜と同時に座面が迫り出す機構。
この機構は「簡易リクライニング」と同じですが、居住性は比べ物になりません。
バックレスト・座面ともにクッション材の詰め合いは申し分無し。
身体のホールド力も素晴らしく、アームレストの高さと革張り部の弾力性とも相俟って、
あのアーバンライナー・ネクストの「ゆりかごシート」を軽く凌駕します。

リクライニングレバーがちょっと変わっているので、初めての人や慣れていない人には「?」かも。
テーブルが格納されている側のアームレスト先端、革張りが途切れる先に「↓」と彫り込まれたパネルがあります。
これを矢印のほうに動かすとパネルが押し込まれ、リクライニングのロックが外れるというもの。

シートピッチが1,050mmと、今時の「デラックスシート」「グリーン席」に比べて狭めなので
人によっては、リクライニング状態にすると前方足元に圧迫感を感じるかもしれません。

オーディオパネルはすでにサービスが終了し、かつての遺構としてパネルだけが残されています。
かつてはおしぼり配布サービスにオーディオ用のイヤホン貸出しと人的サービスが充実していました。

とにかく、日本の鉄道アコモデーション史に深くその存在が刻まれるほどの素晴らしい客室と座席です。
・・・・近鉄さん、ほんとにこの「デラックスシート」を全部「ゆりかごシート」に改造しちゃうんですかぁ・・・!?
あ〜・・・・、もったいないですよぉ・・・










レギュラーシート


レギュラーシートもご覧の通り。普段から見なれた人には格段に感じないかもしれませんが、
「アーバンライナー」とあまり縁のない人が見た場合、現代のアコモと比べても遜色無く感じるはずです。

基本的な部分は「デラックスカー」と同じ造りで、間接照明・補助照明・ダウンライトを惜しげも無く「レギュラークラス」で奮発。
座席やそのモケットはさすがにカジュアルなものになっていますが、
それでもこの安定感と安心感のある客室インテリアとアコモデーションは「お見事!」の一言です。


リクライニング機構は、デラックスシートと同様にバックレスト傾斜と座面スライドが同時に機能。
こちらはバックレストの傾斜がそこそこの角度でストップするのですが、座面のスライドが大きく動くので、
結果として、かなりリクライニングしたように感じます。

バックレストの背中にくる部分は軽く傾斜したスタイルなのですが、ヘッドレスト部になると突然そそり立つようになります。
実際に座ってみると、リクライニングなしの状態だと頭(アゴ)がどうも突き出るような感じになるのですが、
リクライニングしてみると、これがイイ感じに頭が起きた状態になり、心地よい姿勢を保てます。
さらに前の座席がリクライニングを掛けてきても、このヘッド部分が立ったスタイルのおかげで、
目の前に座席が迫り来る圧迫感が軽減されています。

背面の網ポケットは上端を斜めに張っていますが、今見るとこの処理はちょっと古めかしく(安っぽく)見えますね。
もっともこのポケット収納力は大したもので、車内販売が無い近鉄特急では、いろいろと買いこんで乗車する人が多いのですが、
このポケットがあちこちで「イイ仕事」をしているのが見受けられます。

シートピッチはデラックスカーと同様に1,050mm。フットレストもモケット面/土禁面の2面式。

センターアームレストが細くて寸足らずなのが残念。このセンターアームレストは2次車から取り付けられたもので、
1次車の座席を大きく崩さずにアームレストを真ん中に組み込むのは、このサイズが限界だったのでしょうね。










洗面台・トイレ


「もしかすると、その年代の流行り廃れが一番反映されるのがサニタリー部分なのかもなー」
と思ってみたりしたアーバンライナーのトイレでござんす。

床面は天然石材を使い、壁にはタイルを張るという手法。16年という時代の流れがちょっとばかし見え隠れ。
洋式トイレはデラックス車の5号車に、和式トイレはレギュラー車の2号車・3号車に設置されています。

おしぼりサービスは洗面台にトレーを用意してセルフサービスで継続というのが「近鉄」のポリシーを感じますね。


「車椅子用サニタリーの画像がないね」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、
初代「アーバンライナー」には車椅子設備が一切ありません。まだ「バリアフリー」なんて言葉もない時代の産物ですからね・・・。

「すべてのひとにやさしい」を謳い文句に、 乗降用ドアの拡大、多目的室の設置、車椅子用大型トイレを構えた車両の登場は、
翌1989年のJR東日本651系「スーパーひたち」まで待たなければなりません。










デッキ設備


乗客用の乗降ドアは全て内側に畳まれる「折戸」になっています。
どの号車もデッキは狭め。照明にダウンライトを用いている点を除けば、全体的に飾り気の無い空間です。
近年の新型車での広めのデッキ空間と照明などでの凝った演出と比べると、さすがに時代の流れを感じますね。

車内電話はデラックスシートの5号車と6号車にまたがる連結部の狭い空間にひっそりと。

4号車の名古屋寄りデッキには「車内販売準備室」の跡がそのままに残っています。
かなり大掛かりな設備から、当時の繁栄ぶりがうかがえるようです。
文献を紐解くと、デラックスシートでは車内販売品を座席まで届けたり、お弁当の温めサービス、
さらにお弁当と一緒に温かいお茶をオリジナルデザインのカップに入れて無料で提供したりと、まさに至れり尽せりのサービス攻勢。
車内販売で扱うも品もかなり多かったようなので、この基地は機能の全てをフル活用されていたのでしょうね。









コックピット


運転席の直後は誰でも楽しめる特等展望デッキ。
センターピラーが若干邪魔ですが、左右に広いワイドなフロントガラスからは迫力ある展望走行シーンが!
開発当初はこのように前が見えるようなスタイルにする予定はなかったそうですが、
鋭角な先頭エクステリアの採用でフロントガラスもかなりの傾斜が付き、結果として後方光源の写り込みがなくなったために
展望スタイルに踏み切ったそうです。

コックピットに並ぶ機器やメーター類は今見るとアナログそのものですね。






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