JR東日本 E954形新幹線高速試験電車 ファステック360エス 
 JR-EAST Class E954 High-speed test train "Fastech360S"




 2010年の東北新幹線新青森延伸開業を見据えて、JR東日本が開発した高速試験車両です。
 愛称の「Fastech」は「FAST」と「TECHNOLOGY」から取った造語。
 「360」は、時速360Km/hでの営業運転を目標としているところから名付けられました。
 未知なる高速運転で発生しうる現象に解決策を見出し、実用化への技術検証をしていくため、
 数多くの最新技術を搭載しています。

 先頭車は、東京方と青森方で全く異なるデザインとなっています。
 東京方は「ストリームライン」と呼ばれ、500系とE2系を掛け合わせたような形状。
 こちらは500系のデザイナー、アレキサンダー・ノイマイスター氏がデザインを手掛けています。
 青森方は「アローライン」と呼ばれ、力強いボンネット形状が特徴的です。

 客室については、今後20年間を目処に使用していく新幹線車両のプロトタイプとして、
 座席・空調に先進性ある機能を盛り込んでいます。
 グリーン車・普通車とも複数の仕様の座席を搭載し、乗り心地の比較試験を実施。
 航空機のプレミアムエコノミーのような座席や、IT機器を駆使したネット環境など、
 試験車両ならではの設備が多数盛り込まれています。

 試験は主に東北新幹線の仙台以北の区間で、2005年6月からスタート。

 2007年にはE954形での試験結果を受けて、次世代型車両「E5系」の登場が発表されました。
 期待された最高速度については、360Km/h走行時での騒音軽減がクリアできなかったこと、
 E955形Fastech360Zとの併結時の360Km/h走行時に揺れの低減が難しかったことなどにより、
 最高速度360Km/hでの営業運転は断念。
 E5系では最高速度が320Km/hとなることが発表されました。

 2008年頃になると、しばしば日中に大宮駅まで姿を現し、首都圏でも見る機会が増えました。
 2009年には上越新幹線や、長野新幹線の碓氷峠急勾配区間での試験走行も開始。

 2009年中に全ての試験課題を消化し、9月7日付で廃車。
 9月17日に最後まで残ったE954-8の解体が終了し、1両も保存されること無く、
 全車両が試験車としての使命を全うしました。


 エクステリアデザイン:Mr.Alexander Neumeister(E954-1.2.3:ストリームライン先頭車)
 カラーデザイン:福田哲夫氏(TDO(Transportation Design Organization))

 (撮影時期:2008年)




−E954系 fastech 360 S デザインコンセプト−

トータルコンセプト
360Km/h運転車両のプロトタイプ
イーストグリーン(翡翠に輝く先進の矢羽根)
エクステリアテーマ
高速走行時の現象解明の実験プラットフォーム
シルバーメタリック
インテリアテーマ
近未来快適移動空間の提案ステージ
パールホワイト


【車内を撮影した画像は、全て試運転列車の停車中に窓越しに撮影したものです。
窓ガラスへの映り込みなどで見難い部分が多いと思います。何卒ご了承下さい。】










両先頭車はそれぞれで先頭形状が全く異なったデザインとなっています。
トンネル突入時に発生する気圧波騒音への対策として、空気力学上で最適な形状を模索すべく比較のためです。
東京方の1号車は「ストリームライン」と呼ばれる、500系新幹線をさらに進化させたような形状。
八戸方の8号車は「アローライン」と呼ばれる、これまでの新幹線にはない力強い印象の形状となっています。
新型車両「E5系」では、「アローライン」の先頭形状が採用されるといわれています。

この両先頭車の車内は、測定機器類を満載した「測定室」となっているようで、全ての窓のブラインドが下ろされた状態。
中の様子をうかがい知ることができませんが、「座席取り付け準備工事」はなされているそうです。










2号車は「普通車」を想定した座席が搭載されています。海側が3人掛け、山側が2人掛けとなっています。
ヘッド部分がとても変わった形状で、各座席とも窓方向部分のみに大きなヘッドレストが突き出ていて、左右非対称のデザイン。
同じくヘッド部分には薄めのクッションピローが付いていて、ヘッドレストの出っ張りにもピローが張られています。
「普通車」で可能な限りの「視線を遮るプライバシー向上」を狙った座席ではないでしょうか。
リクライニングレバーは、アームレストの先端に。座面スライド機構は備えていないようです。

シートピッチはカタログ上の数値で1,040mm。17列配列で、総定員は85名の設定となっています。
車内をざっと見た感じでは、全て同じタイプの座席となっているようです。










3号車も「普通車」を想定した座席が搭載されています。2号車と同じく海側が3人掛け、山側が2人掛けとなっています。
ライムグリーンのシートモケットが日本離れした印象で、どことなく「ヨーロッパの列車」を思わせるインテリア。
ヘッド部分から背中に掛かる部分が、座席本体とは独立したクッション材で構成されているように見えます。
ヘッド部分には薄めのクッションピローが取り付けられています。

一見すると同じ型の座席が並んでいるようですが、リクライニング機構によって2タイプが存在するようで、
バックレストのみ倒れるタイプと、座面スライド機構も備えた座席が確認できます。
また、背面テーブル形状とドリンクホルダーの有無など、細かい差異も見受けられます。

シートピッチはカタログ上の数値で1,040mm。19列配列で、八戸方19番列のみ2+2で、総定員は94名の設定。
車端部のデッキ仕切り壁は、ライムグリーンの壁にフロストガラスの自動ドアという未来的な印象のデザイン。










4号車は座席取り付け準備工事までの段階に留まっており、車内に座席はありません。
床面のカラフルな模様は養生ではなく、床タイルそのものの模様のようです。
この模様とカラーコーディネイトを合わせた座席というのも、かなり派手やかな「新幹線離れ」したものでしょうね。

シート取付の基礎ピッチはカタログ上の数値で980mm。JR東日本の新幹線普通車の標準ピッチです。
東京方のデッキ仕切り壁には、測定用の液晶モニターが取り付けられています。










5号車はファステック唯一の「グリーン車」という設定になっていて、ドア脇にもグリーンマークが掲出されています。
車内は全席が2+2の設定で、八戸方の13番列のみ車椅子対応席を設定した1+2配置。
座席モケットにグレーをベースとした落ち着いた柄を採用しており、車内の雰囲気は「グリーン車」らしさが感じられます。

座席は大きく分けて2タイプがあり、ヘッドレスト部分が大きく迫り出しているタイプと、収納ウィング式タイプが確認できます。
これ以外にも、アームレスト部分の操作パネル形状や位置の違いや、座席背面ポケットなどのデザイン処理に違いが見られます。
座席回転が、E3系初期普通席に見られるような、アームレスト後方のレバーで回転させるものもあるよう。
中にはセンターアームレストに液晶パネル?を装備しているようにも見える座席もあり、差異による種類は多岐に渡っています。

シートピッチはカタログ上の数値で1,160mm。13列配列で、八戸方13番列のみ2+1で、総定員は51名の設定。
窓間に取り付けられたアコーディオン状の飾りパネルがどことなく「500系」のイメージを感じさせます。











6号車は「普通車」の設定ですが、車内は全席2+2配列となっていて、さしずめ「プレミアムエコノミー」といったところでしょうか。
座席そのもののデザインは、ファステックに搭載されている座席の中で一番「現実味」があるように感じられます。

バックレストのクッションが3段張りになっているのが目立ちます。
また、センターアームレストの先端には小物置きがあり、その下には収納式のカクテルテーブルらしきものが見えます。
ヘッドレスト部分は、プライバシーガードがさっくり切り落とされていて、E351系のグリーン席を連想させる形状。
客室の前後で照明が異なり、八戸方は白熱灯色の緩やかな照明、東京方は蛍光灯色のシャープな照明となっています。

センターアームレストには緑色の四角いボタンがありますが、これはリクライニングボタンではありません。
(リクライニングは外側アームレスト先端のレバーによって操作するようです)
このボタンは「送風装置」の起動ボタンで、テーブルにある説明シールによると座面を通って風が送られてくる機能のよう。
実際にはどのようなものなのか、詳しいことは分かりませんが、なんともユニークな機能です。

シートピッチはカタログ上の数値で1,000mm。19列配列で、東京方1番列のみ2+1で、総定員は75名の設定。
デッキ仕切り壁には情報装置と思われる「マルチメディア・エクスプレス」なるものが取り付けられています。










7号車は「普通車」の設定。ブルー系のシートは爽やかな印象ですが、シートそのものはこれまた変わったデザイン。
バックレストのクッションは3段張り。平坦なものと体のラインに合わせてカーブ処理がなされているものがあるようです。
リクライニングボタンが2つ付いているので、お馴染みの座面スライドボタンのように見えるのですが、
実は、白いのはリクライニングで黒いのはレッグレストの操作ボタンとなっています。
座面はリクライニングと同時に自動的に迫り出す機構となっているようで、座面は後方チルトではないようです。

6号車同様に、八戸方は白熱灯色の緩やかな照明、東京方は蛍光灯色のシャープな照明となっています。
また、客室の座席配置は八戸方と東京方で2+3が逆転する、特異なシートコンフィグを展開させています。
東京方1〜7番列が海側2列・山側3列。8・9番列は2+2で通路側にパーテーションと設置。八戸方10〜17番列が海側3列・山側2列。
ファステックには「車体傾斜装置」が搭載されているので、傾斜走行時のバランスを計測するための措置でしょうか。

シートピッチはカタログ上の数値で1,000mm。総定員は83名の設定。








デッキ設備
ミニショップ・乗降口・デッキ設備・トイレ/MINI SHOP・ENTRANCE・DECK SPACE・TOILET・SANITARY SPACE

4号車の東京寄りデッキにはビュッフェのようなカウンターが設置されています。
その脇には半円形状の個室のようなスペースがあり、ここはカタログ上では「ミーティングスペース」と称されています。
カウンターや壁面がカーブを描く曲線主体の空間で、どことなく優雅さが漂います。
(もっとも、車内にはあちこちに測定機器が並んだ試験車両らしい雰囲気のほうが強いですが)

トイレは、2号車・5号車・7号車に設置されています。このうち5号車は車椅子対応の多目的トイレとなっています。
トイレのドアはピクトグラムを大書きしていて、サインとデザインの融合を試みるような目的もあるように見えます。











「Fastech」の先輩にあたるJR東日本の高速試験用新幹線電車 952・953系です。
愛称は「STAR21(スター21)」で、「Superior Train for Advanced Railway toward the 21st century」の略。
日本語訳すると「21世紀の素晴らしい電車」となります。
2種類の先頭形状・3種類の軽量ボディ・連接/非連接台車・巨大パンタグラフカバーといった特殊装備に身を固めて登場しました。

1992年登場後すぐに試験を開始、1998年の廃車まで数々の高速試験運転に挑戦し、1993年12月21日に最高速度425km/hを達成。
「Fastech 360 S」の設定上の最高運転速度は車輪について条件付きで405km/hとなっていることから、
「STAR21」は「Fastech」にとって越えられない存在として、今でも君臨しています。
「STAR21」の試験データは、現在のJR東日本の主力となっている各新幹線の開発・地上設備の向上となって活かされました。

【車体軽量化】 E1系「Max」・E2系「あさま/やまびこ」・E3系「こまち」
【高速軽量台車】 E2系「あさま/やまびこ」・E3系「こまち」
【車体ボディの平滑化】 E2系「あさま/やまびこ」・E3系「こまち」
【低騒音パンタグラフカバー】 E2系「あさま/やまびこ」
【高速運転向けシングルアームパンタグラフ】 E3系「こまち」
【誘導電動機駆動】 E1系「Max」・E2系「あさま/やまびこ」・E3系「こまち」
【高速シンプル架線】 長野新幹線
【変電所への高調波拡大抑制装置導入】 東北・上越・長野新幹線


現在、東京方先頭車であった「952-1」が米原の鉄道総合研究所に、
盛岡方の2両「953-5」「953-1」が仙台の新幹線総合車両センターに保存されています。









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