JR東日本 E353系 スーパーあずさ・あずさ・かいじ・富士回遊・はちおうじ・おうめ

  

特急「あずさ」「かいじ」は、長らくE351系とE257系の2車種が使われてきましたが、
E351系の老朽化取替えを機に、車種を1種に統一するために開発されたのが、新型車両「E353系」です。

E351系同様に車体傾斜式車両で急カーブでの高速通過が可能となっていますが、車体傾斜のシステムはE351系と違い、
圧縮空気で車体の傾斜を調節する「空気ばね式」が採用されています。
振り子で高速運転が可能だった分、車内が狭かったE351系と、振り子式を止めてカーブでの高速運転を諦めた分、居住性が良くなったE257系の
それぞれの良いところを持ち合わせた車両となりました。


内装・外装ともにトータルデザインは奥山清行氏が担当。
奥山氏は、秋田新幹線E6系・北陸新幹線E7系・トランスイート四季島など、近年のJR東日本の代表的な車両のトータルデザインを手がけていて、
JR東日本の本格的な在来線特急車両のデザインを手掛けるのは、このE353系が初作品となります。
特にエクステリアデザインでは「E259系NEX」「E657系ひたち」と設計・製造面での車両規格を合わせなければならないというハードルが課せられた中、
奥山氏は自由でのびやか、かつ大胆で未来的なデザインの流線型を実現させ、登場直後はメディアなどで頻繁に取り上げられ、大きな話題になりました。


E353系は、2014年にまず先行量産車が登場。この編成を使ってカーブ通過の車体傾斜角度の各種データ取りや試運転などが行われました。
2017年にようやく量産車が登場し、その年の12月にまずE351系「スーパーあずさ」の4往復を置き換えてデビュー。
商業運行のデビュー日は、奇しくもE351系のデビュー日と同じ12月23日でした。
その後は、JR東日本の新型車両の超速量産製造ペースに乗って、次々と量産編成が工場から出場し、続々とロールアウト。
デビューのわずか4ヵ月後の、2018年3月ダイヤ改正で全ての「スーパーあずさ」がE353系となり、ここでE351系は全編成が引退となります。
さらに4ヵ月後の7月には「あずさ」の一部と、「かいじ」のほとんどをE257系から置き換え、この時点で名実ともに「中央東線の顔」として君臨。
そして2019年3月には全ての「あずさ」「かいじ」、さらに「中央ライナー」の特急格上げで、中央東線のすべての定期特急がE353系化されます。




−E353系 デザインコンセプト・テーマ−

トータルコンセプト:「伝統の継承、未来への躍動」
エクステリアテーマ:E351系や183系の歴代「あずさ」のDNAを引き継ぎながら、日本の中央を走る新時代のダイナミズムを表現
インテリアテーマ:ビジネスの「機能性」とレジャーの「高揚感」、観光とビジネスユースの双方にマッチするデザイン
ベースカラー:アルパインホワイト(南アルプスの雪景色)
上部ライン:あずさバイオレット「あずさの伝統色の継承」
キャノピー:ストリームブラック「風を切る疾走感を強調する塊感のあるブラック」
窓周り・フロント:キャッスルグレー「松本城の青みがかった漆黒」





グリーン車




グリーン車は9号車に、半室構造で定員30名と、幹線のドル箱特急としては非常にミニマムです。
E257系の28名よりは多いものの、E351系の50名からすると半分近く減っていることになります。

車体構造的にほとんどE657系のグリーン車と同じ(客室外の部分でサロ657とは設備配置が異なる)で、
「あずさ」系統と「ひたち」系統では、客層や混雑時間帯がやや異なるところを、同一規格の車両にしているあたり、
E353系専用の車両を新規設計せず、E657系と合わせることで製造コストを抑える事情が垣間見えます。


グリーン車のインテリアコンセプトは、「より上質な寛ぎ感のある暖色のベージュ」をメイン配色として「ハイテク・モダン」「高揚感」「機能感」を表現。
濃い目のレッドブラウンとシルバーのツートンの座席に、レッドカーペットから扉〜天井へと続く赤のラインで、空間の奥行きと華やいだ鮮やかさが感じられ、
E657系のグリーン車よりも「上級クラスの客室」という、「高級感」「クラス感」を実感できる空間になっています。


シートピッチは1,160mm。リクライニングに連動して、座面の前方が持ち上がってスライドするチルト式となっています。
足元には、安っぽいフットレストバー。足を載せていないと勝手に収納されてしまうタイプです。
このフットレストバーは一番下まで下ろしても、床面からかなりの高さがあり、フルリクライニング状態でないと足を載せた時の体勢のバランスが悪く、非常に使い勝手が悪いです。

コンセントは設置位置がE657系のアームレスト先端から前席下部のステンレスカバー部分に変更になっています。
窓側席に座っていて、通路側の人がコンセントを使っている場合、トイレなどで通路に出る場合にコンセントから伸びるコードを跨がなければなりません。
その際にコードに脚を引っ掛けて転んだり、コードを破損したりしそうで、要らぬ心配にやや不安になります。



全体的にE657系のグリーン席からほとんど何の進化や改善も無く、ここでもE353系のために全く新しい座席を設計開発することを放棄してしまったのを感じてしまいます。
今回、奥山清行氏は外装とともに内装デザインも手掛けているそうですが、(おそらくJR側からの座席デザインの制約があったであろう)E6系やE7系のグリーン車座席に比べると
座席そのものに「おッ!」と思わせるものが皆無です。大胆な流線型デザインで期待が掛かる分、車内に入って座席に座ると、そこには何も真新しさがないのです。

奥山氏がデザインしてきた数々の製品・商品を見ると、同氏がこんな座席で果たして自分の仕事として納得して、ゴーサインを出すかというと、それは否でしょう。
JR東日本から「E657系の座席」をそのまま押し付けられて、それを改変することは許されない環境下でのデザイン作業を強いられていたのではないかと考えてしまうのです。
それでもE657系のグリーン車に比べるとかなり「クラス感」がアップして見えるのは、空間の真ん中を突き抜ける赤のラインだったり、鮮烈なレッドカーペットだったり、
ブラウンに赤の細かなステッチを縫いこんで、落ち着いたレッドブラウンの座席に見えるマジックだったり。
あのE657系のグリーン車が高級感溢れるものに見えるようになったのは、逆に奥山氏のデザイン力の高さを証明したといえる「車両」と言えるのではないかと思います。












普通車





普通車は、ブラウンとレッドで彩られた重厚なグリーン車とは反対に、ブルーとグレーの爽快な印象の客室です。
普通車のインテリアコンセプトは、「活動的で明るい寒色」をメインに、「南アルプスと梓川のきよらかさ」「シンプル・清涼・透明感」を表現。
座席の上半分を彩るブルーは、光沢感のある濃い青で「水のみなも」を表現し、濃淡のブルーで梓川の清らかな流れと水面のきらめきをイメージしています。

E351系の独特な“狭い”客室から大きく脱却し、またE257系のポップなイメージも姿を消し、一目で「梓川」を思わせる、オーソドックスながらも上質さを感じる客室です。
今回、E353系の普通車には冬の寒さが厳しくなりつつある12月初めの頃の早朝に初めて乗車しましたが、不思議とブルー系の客室に「寒々しさ」は感じませんでした。
むしろ、真冬の朝の空気の澄んだ清清しさが美しく感じられる客室で、E657系の「霞ヶ浦のうねり」とはまた違った「水の透明感」に感動を覚えました。


シートピッチは960mm。
普通車座席もE657系で設計したものをほぼそのまま流用しているよう基本的な作りはほぼ同じですが、ちょこちょこと仕様変更されているのが分かります。
コンセントは前席下部のステンレスカバー部分に設置。
個人的には、コンセントはE657系のアームレスト先端のほうが使い勝手が良く感じるので、E353系のこのコンセント位置は使いにくかったです。
リクライニングのボタンは、E353系ではアームレスト先端格納のレバー式に変わりました。
このあたりの設計変更のせいか、外側のアームレストはE657系のものより長さが短くなっています。
コンセントは、車椅子対応席とその周辺席、車端部席では向きによって前席が無くコンセントが使えなくなるので、自席の腰部(サイドアームレスト後方下部)に設置されています。

背もたれ部分の背中を両脇から支えるエッジが、E657系よりもメリハリがついて、背中を包み込む感じが強くなりました。
背中を両脇から支えるエッジが急カーブでの車体傾斜発動時に、体全体を慣性に振られるのを押さえてくれ、また通常走行時にも安定して背中全体をホールドしてくれます。

通路移動時のグリップは座席上部に移動。こちらも車体傾斜走行時の揺れでとっさに掴みやすいデザインに変更されたものと思われます。
グリーン席同様、グリップには座席番号の点字プレートが貼られています。


E353系では、新たに客室内に大型の荷物置き場が設置されました。
1号車・3号車・5号車・7号車・10号車・12号車の客室松本寄りに設置され、2段式でスーツケースも楽々収納できる、かなり大きめの収納スペースになっています。
スキー板やスノーボードを収納しても倒れないように可動式のバーとバンドが設置されています。


E353系は9両基本編成と3両付属編成があり、そのどちらにも車椅子対応席とバリアフリー設備が設置されています。
先代のE351系とE257系でも基本・付属編成が存在しましたが、バリアフリー設備は基本編成にしかありませんでした。
逆を言えば付属編成のみでの運転は考慮されておらず、あくまでも基本編成の増結用という存在でした。
E353系でもデビュー時は、付属編成は常に基本編成に連結されて使われていましたが、最初から付属編成にもバリアフリー設備が盛り込まれていたということは、
E353系の設計段階から、付属編成だけでの運転(=富士急行乗り入れ特急)が計画されていたのが暗に読み取れます。
その車椅子対応席とバリアフリー設備は、基本編成では10号車の新宿寄りに、付属編成は2号車の松本寄りに設置されています。


天井荷物棚の下部には、デビュー当時からランプ点灯装置が設置されています。
「あずさ」「かいじ」の定期列車が全てE353系で統一された時点(2019年3月ダイヤ改正)で、常磐特急「ひたち」系統と同じ全席座席システムが導入される予定。
「あずさ」「かいじ」に加え、富士急行乗り入れ特急「富士回遊」や中央ライナーからの格上げ特急「はちおうじ」「おうめ」が全席指定制へと移行します。



E657系の時にも感想として挙げたように、、E353系でも普通車のグレードがかなり高くなっていて、グリーン車の必要性が全く感じられないほどの快適さです。
普通車座席もおそらく「E657系ベースのものを使う」のが規定路線で、デザイナーの奥山氏には座席デザインをいじる隙がほとんど無かったのではないかと思いますが、
ラメの輝きを盛り込んだ青を用いて「梓川の流れ」を表現したり、客室全体の配色でグリーン客室との対比を鮮明にして、差の少ない両者に「クラス差」を感じさせるようにしたり、
ここでも制約の大きい中で奥山清行というデザイナーのすごさを、ひしひしと感じさせるものでした。








マルチスペース ラゲージスペース サニタリーコーナー デッキ設備 運転台










デッキは全体が濃い木目調のパネルで覆われ、スポットライトと間接照明の効果もあって、まるでホテル空間のような雰囲気です。
寒冷地を走る車両ということで、デッキ乗降ドアの脇にはヒーターが格納されていて、列車を降りるその時まで暖かい車内を感じることができます。

サニタリースペースはほぼ1両おき、1号車・2号車・4号車・6号車・8号車・9号車・11号車の松本方デッキに設置されています。
2号車と9号車は車椅子対応の大型トイレ、そのほかの車両は洗面台・洋式トイレ・男性用トイレで構成されています。
全ての洋式トイレには、ベビーベッドとベビーキーパーが設置されています。ウォシュレットは未設置です。
AEDと多目的室は9号車に設置されています。









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