2011年6月から、豊肥本線の熊本−阿蘇−宮地間を走り始めた、観光特急「あそぼーい!」号。 かつての「SLあそBOY」の愛称を引っさげ、2010年に廃止された観光列車「あそ1962」の跡を継いでの登場となりました。 愛称「あそぼーい!」は、熊本言葉で「あそぼうよ!」という意味の方言から。乗る前から楽しい気分になれる愛称です。 改造元の車両は「オランダ村特急」から改造遍歴を繰り返してきたキハ183系1000番台気動車。 この「あそぼーい!」で、実に5回目の改造ですが、これまで使われてきた列車のイメージを微塵も感じないほどに生まれ変わりました。 ボディいっぱいに、列車のイメージキャラクターである黒犬の「くろちゃん」を纏った外観は、実に奇想天外。 そして車内も、隅々まで見て回りたくなるような面白い仕掛けや設備が満載です。 |
1号車は宮地方の先頭車。 一番前は展望席となっていて、宮地行きの下り列車では前面展望が楽しめます。 展望席はカラフルな縞々模様が鮮烈な座席が9席。2+1配置ですが、各座席が単体として独立した座席となっています。 展望席の座席はリクライニングしません。また、もちろん回転もできない固定座席となっています。 この区画の指定席は「あそぼーいパノラマシート」のコードで区分けされているので、購入時にはちょっと注意が必要。 指定の際には、駅のみどりの窓口で「パノラマシートで」と一言申し出る必要があります。 (JR九州のWeb予約や、駅のMV端末では「パノラマシート」は指定することができないので、駅の窓口での購入が必須となります。) 展望席の後ろの空間は、2+2配置の普通席。こちらも展望席に負けないカラフルな縞々模様の座席となっています。 シートピッチは「オランダ村特急」時代から変わらない960mmピッチ。 足元にはフットレストが設置されていますが、このシートピッチではあまり使う機会は無さそうです。 窓間の柱部分には小さな額縁があり、全て黒犬の「くろちゃん」のイラストが飾られています。 テーブルは背面収納式を装備。座席間の肘掛は跳ね上げて収納することができます。 カーテンはプリーツカーテン。広げると一面に「くろちゃん」が細かくあしらわれていて、まさに「くろちゃん尽くし」な車内! デッキ寄りには、窓に向かって設置されたベンチがあるコモンスペース。反対側は車椅子の方のスペースとなっています。 |
2号車は、デッキ寄りに4区画の「セミコンパートメント」席があります。 この区画は3名以上の利用から指定が可能となっています。そのため、見知らぬ人同士が会い向かうことにはなりません。 セミコンパート席の座席は、窓の幅に合わせて移設されているので、座席間が最大限に広げられていて、足元空間にかなり余裕があります。 そのかわり、背中面が後ろの席や妻面壁ギリギリとなっているたため、リクライニングすることができません。 座席間には大きなテーブルが設置されています。テーブル面は折り畳みが可能となっています。 普通席は、赤系統の市松模様が目にも鮮やかで、楽しい雰囲気の車内となっています。 シートピッチや座席そのものの機構は、他の車両と同じものです。 「セミコンパート」区画と普通席区画の間には、小さな荷物ラックが設置されています。 |
「あそぼーい!」のメイン車両でもある3号車。その3号車で一際異彩を放っているのが、この客席。 「白いくろちゃんシート」と名付けられた転換シートは、世界初の「親子シート」。 この車両のデザイナーの水戸岡鋭治氏の特集番組がテレビ放映された際、この座席の開発模様が紹介されたのでご存知の方も多いのでは。 窓側が「子供用」・通路側が「大人用」となっていて、座席背面やヘッド部分の高さが異なっているのが一目で分かるほか、 座面も大人用が大きく、子供用は小さくて足元には足を掛けるステップも付いています。 また、窓からの眺めを子供目線の高さに合わせるため、床そのものを他の車両よりも高くして、座席が高い位置に設置されています。 通路に立つと、大人の背の高さでは頭が天井スレスレになるほど。 完全に新製設置の座席なので、窓位置とのズレによるハズレ席の発生が懸念されますが、極力座席と窓が合うように努力が払われています。 そのため3番席と4番席、6番席と7番席の間はピッチが広めに座席が設置されていて、逆にちょっとした「アタリ席」となっています。 また、通路を挟んで左右の座席が千鳥配置で互い違いになっているので、反対側の窓の眺めも楽しめるようになっています。 快速電車などをイメージさせる転換シートですが、ここはさすが特急用ということで転換時に座面が向きに合わせてチルトするようになっています。 またクッション材にカバーにはアイボリーの革を使っていて、白木作りの部分ともあいまって、その「白さ」には爽快感を覚えるほどの空間。 こうなってくると、子供の手によって遠慮なく汚されてくる末路を想像させるのですが・・・・ この白さが「汚さないようにしなきゃ」という緊張感を生み、子供に公共物を丁寧に扱うことを教える教育の場とする水戸岡氏の考えが見えてきます。 この「白いくろちゃんシート」は、展望席と同様に通常とは違うコードで販売区分けがされているため、窓口で申し出て購入する必要があります。 購入方法や大人子供の組み合わせ、料金などはJR九州サイト「白いくろちゃんシート」登場のページを参照。 |
3号車のデッキ寄りには、売店コーナー「くろカフェ」が設置されています。 楕円形のカウンターは、子供も「お買い物気分」が楽しめるようにカウンターの一部分を低くする配慮も。 商品はたくさんの「くろちゃんグッズ」に、阿蘇の地サイダーやお菓子、オリジナル弁当「くろちゃんのあそモコ弁当」などなど。 特にグッズは、行程半ばに売り切れになってしまうほど人気があり、早めにカフェに行って購入することをおすすめします。 ちなみに「あそぼーい!」では、カートによる車内販売は行っていません。 時折、アテンダントさんがカゴに阿蘇のお土産などを持って車内を回りますが、基本的に物品販売はこの「くろカフェ」で。 カフェカウンターの反対側には白い革製のソファー。可愛らしくも、なんともゴージャスな雰囲気。女の子ならお姫様気分になれるかも?! 妻面壁側にはベビーサークルも設置されていて、赤ちゃん連れのファミリーにも優しい列車「あそぼーい!」です。 このソファーコーナーには乗車記念のスタンプと乗車記念証が置かれていて、自由にスタンプを押して記念に持ち帰ることができます。 |
「くろカフェ」とは反対側の妻面寄りには、子供の遊び場「くろクラブ」がドドーーン!!と。 圧巻は、木のボールで埋め尽くされた「木のプール」。まさに「木に埋もれる」体験ができます(お子様限定) 茶室を模した和室スペースでは「ごっこ遊び」が楽しめ、その反対側の「くろ文庫」には世界の童話や日本の昔話の絵本を集めたミニ図書室。 全てのコーナーで、子供が倒れたりして危険と予測される部分にはクッション材のカバーがされているので、親御さんも安心。 数名が乗務するアテンダントさんのうち、1名はこのスペースで子供の相手をするために常にこのスペースに常駐しています。 アテンダントさんは子供と一緒に歌を歌ったり、絵本の読み聞かせをしたり、まさに「走る保育園」のごとくの賑やかなで楽しいスペースです。 |
4号車は熊本方の先頭車。1号車同様に、一番前は展望席となっていて、こちらは熊本行きの上り列車で前面展望が楽しめます。 展望席は、1号車とは対照的にブルー系のモザイク模様がクールな印象。こちらも9席が設置されています。 前方の窓の上部にはシェードが格納されています。 逆光時などに眩しさを遮ることができますが、展望がウリのスペースなので逆光でも使われていることはほとんどありません。 展望席の後ろの空間は、ソファーのあるコモンスペースを挟んで普通席があります。普通席は赤系のモザイク模様がサイケデリックな雰囲気。 |
4号車の展望席と普通席の間の空間には、ソファーのあるミニラウンジスペース。 大きなソファーの上の壁面には大きなくろちゃんのイラスト、そして目線を左にやると金の蒔絵で作られたくろちゃんのエンブレムが。 2号車にはコモンスペースとマルチスペースが設置されています。 コモンスペースは、古くは「ゆふいんの森2世」時代にセミコンパートメント席が設置されていた部分。 木製のベンチがボックス席のように配置されていて、ちょっとした個室のようです。もちろんフリースペースなので誰でも利用可能。 マルチスペースは簡単なベンチが設置されていて、着替えや授乳など多目的に使える小部屋です。 |
トイレと洗面室は、1号車と4号車に設置されています。 いずれも男女共用の洋式個室が1つと、洗面室が1つ。洗面室の入り口にはイグサで作られた縄のれんが掛かっています。 各車デッキにはくろちゃんのイラストがたくさん飾られていて、これも思わず車内を探検して全てを見たくなっちゃう「仕掛け」。 |
愛称「くろちゃん」。 本名は「あそ くろえもん」。その名の由来は、阿蘇を流れる「黒川」の近くで生まれたことから。 特急「あそぼーい!」のイメージキャラクターと同時に、阿蘇駅の名誉駅長を勤める、2歳の雄犬。 公式設定はここまでですが、車内随所に飾られているイラスト画を見ると「おとぼけキャラ」で冒険好きな男の子のようですね?! |
3号車のチャイルドスペース「くろクラブ」の中にあるミニ図書室「くろ文庫」。 本棚には世界の童話の絵本などがいっぱい並べられていますが、その中にこっそり「くろちゃん絵本」が置いてありました。 日本語・英語・中国語・韓国語で、一日のあいさつをくろちゃんの冒険に沿って紹介するインターナショナルな1冊です。 製本や紙面の印刷具合から、手作りされた雰囲気たっぷりのくろちゃんの絵本。 絵本の中身を撮ってきましたのでご紹介します。揺れる車内での撮影でしたので、ちょっとブレてるところはご容赦あれ。 (タイトル:くろ/ごあいさつ 著者:こたすぎすぎ/プロデュース:水戸岡鋭治(ドーンデザイン研究所)/ 編集・デザイン:ジョワ・ステューディオ・小谷川和江・杉本真文・杉本睦美/発行所:九州旅客鉄道) |