かつて鹿児島への唯一の道であった肥薩線。山深い中に線路を通す工事は難関続きで、故に現在では絶景が多く点在する「名眺望」路線に。 また、路線自体が長い歴史を持っていることから、途中駅も歴史ある駅舎や由緒ある駅が多く、歴史懐古の点からも興味深い路線です。 そんな肥薩線をJR九州が「観光路線」として仕立て上げたわけですが、そこに投入されたのが観光列車「いさぶろう」号と「しんぺい」号。 急勾配・ループ線・スイッチバック・日本三大車窓の一つにも数えられる「矢岳越え」と、目まぐるしく変わる風景の中を行く列車は、 車内も観光向けに特化した作りで、客室乗務員が乗り込んで車窓案内アナウンスや車内販売もする、九州の名物列車となっています。 ちょっと変わった列車名は、この肥薩線が開通した時の鉄道院総裁「後藤新平」と逓信大臣「山縣伊三郎」にちなんだもの。 同線内の工事でも最も難工事だったという矢岳第一トンネルには、「後藤新平」と「山縣伊三郎」の石額が今でも掲げられています。 |
「いさぶろう」「しんぺい」は通常2両編成で運転され、「SL人吉」の運転日に3両編成となります。 この車両も、「はやとの風」同様にローカル線向けの通勤型ディーゼルカーを改造したものとなっています。 車内は4人掛けボックス席が基本。一部、窓割の関係などから2人掛け席となっている区画もあります。 座席は、レトロ調というよりも「古典車両風」を思わせる、背もたれの上半分が格子状になっているのが大きな特徴。 また、濃い色合いの木素材をふんだんに使っているので、車内はとても落ち着いた色調となっています。 ボックス間ピッチは、約1,450mm。座席幅も1,040mmで、全体的にお世辞にも「広い」とは言えず、4人で座るとけっこう窮屈に感じます。 これは、元になった通勤車両の窓割りをそのままに、眺望に難の発生する区画を無くすためにこの設定になったと思われます。 ですので、どこのボックス席でもちょうど窓1枚が収まるようになっていて、「窓無し区画」というのはありません。 (一部、連結部に近いボックス席はかなりワイドピッチで、ボックス間がけっこう広々としています) ただし、2人掛け席は窓割りが悲惨なほどやっつけ仕事的に配置されているので、ここだけは確実な「ハズレ席」。 このボックス席は、背もたれ・座面ともにクッションがとても薄く、乗っているとけっこうお尻が痛くなってきます。 しかもあまり線路状態が良くない山奥のローカル線をガツガツ走るので、振動が直に腰に響いてきます。 また、背もたれが半端な位置で格子部分を取り付けられているので、背中をもたれても落ち着かず、 大きくもたれかかると、頭が格子部分に当たって痛い思いをするという、「雰囲気先行」「居住性は低め」のデザインなのが残念。 ボックス間には大型のテーブル。日よけのブラインドも木素材を生かしたすだれ風のものとなっています。 |
「いさぶろう」「しんぺい」のボックス席は指定券が必要な「指定席」となっていますが、時刻表の上では全席指定ではない「普通列車」。 つまり、指定券が無くとも乗車することは可能となっていて、実際に地元の乗客が一駅だけ乗ってきたりもします。 指定券無しで乗車した場合の座席は、2号車の運転席寄りのベンチシートか、3号車のトイレ前のソファーコーナーになります。 着席できる人数は3号車が増結される時でも10人ちょっと、2号車のみとなる時は7人だけとなるので、極力指定券を確保した方が得策です。 デッキに面した木製パーツが丸出しのベンチは折り畳み収納式となっていて、折り畳むとここが車椅子スペースとなります。 |
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各車両の中央部には、大きな窓にベンチとカウンターテーブルを設けたコモンスペースが設置されています。 巨大な窓に改造されているのは「キハ140-2125」(初期登場車)のみで、他の2両は窓の拡大工事は見送られています。 各車両とも、座席を設けるにはあまりに狭すぎる、縦に細長い窓部分があるのですが、ここも小さくカウンターを設けています。 「キハ140-2125」の人吉方にはサービスコーナーが設けられています。 「いさぶろう」「しんぺい」のどちらの列車にも客室乗務員が乗務していて、カウンターでは車内販売が行われます。 品数は特急列車の車内販売に比べると少なめですが、片道約1時間の旅でいつでも飲み物やお菓子が買えるのは便利です。 |
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「キハ140-2125」と「キハ47-8159」にはトイレが設置されています。いずれも洋式トイレで小さな洗面台が個室内に設置されています。 「キハ47-8159」のほうは車椅子対応となっていて、個室内には手すりが増設されています。 個室内は狭いので中で車椅子の取り回しは無理そうですが、通路部分が広く取られていて、のれんで視線を遮る工夫がなされています。 デッキ部分は、かつての通勤車両時代にデッキと客室を仕切る壁がなかったため、今もデッキ仕切り壁はありません。 途中停車駅での「ミニ・エクスカーション」のようなイベントもある列車なので、デッキには雨降時の貸し出し傘も準備されています。 デッキ部分やトイレなどは全体的に、特急「はやとの風」に準じたデザイン処理となっています。 |