古くから成田空港への鉄道輸送のパイオニアとして、海外へ向かう多くの旅行者に愛されてきた京成電鉄の「スカイライナー」。 1991年3月には空港直下へと乗り入れる路線が開業して、上野と成田空港が1時間で結ばれるようになりましたが、 それでもその所要時間は、世界の主要空港アクセスと比べるとワーストレベルの不便さでした。 2010年7月。これまで歴代「スカイライナー」が通い続けてきた京成本線を経由せずに成田空港へ繋がる高速新線が開業。 北総鉄道線からその先に新線を建設して、ほぼその全線で高速運転が可能な高規格な鉄道線が敷設されました。 京成電鉄では「スカイライナー」の運行をこの新高速線経由へと切り替え、開業と同時に新型車両を投入しました。 新型車のデザイナーには、服飾デザインや舞台プロディースで世界レベルの活躍を魅せる山本寛斎氏を起用。 同氏にとっては初の鉄道車両デザインとなり、斬新で奇抜なその新型車両は発表と同時に大きな話題となりました。 高速新線の愛称も「成田スカイアクセス」と決まり、ここを新型スカイライナーは最高時速160キロで走ることも決定。 日暮里から空港まで36分、上野からでも40分台で空港に到着でき、これによりついに成田アクセスも世界レベルに到達しました。 |
「透明感」 初めてこの新型スカイライナーに乗車して、客室へ足を踏み入れたときの第一印象。 白を基調としたベーシックな空間ながら、2段構成で高さを演出した丸天井と、まるで宇宙に浮かんでいるかのような床の柄。 客室とデッキを仕切り壁は、瑞々しさと清涼感に溢れる何ともいえない色合い。 「まず座席」ではなく、空間そのものを作り上げているこれらのものが強いインパクトを与えてくれるという時点で、 久々に「乗ること自体がワクワク感に満ちている」、素晴らしい特急車両が出てきたなと感じられます。 座席はパッと見、実にシンプル。 無駄を削ぎ落とし、マラソンランナーのようなストイックさがそのまま座席になったかのようなフォルム。 見るからに座面・背もたれ面ともクッションがかなり薄く、それがそのまま「硬い座席」に感じられますが・・・・ 実際に座ってみると、まず座面はさほど硬くはありません。見た目に反して意外とお尻がクッション材に沈み込みます。 もっとも、「フカフカとした座り心地」というほどではなく、1時間程度の乗車なら充分かなという程度の柔らかさ。 新素材の「バネックス」を鉄道車両として初採用したのが大きな宣伝材になっていますが、その効果によるものでしょうか。 京成の触れ込みでは「底突き感を軽減した」のがウリのようですが、160km/hに近い高速運転時には少なからず底突き感があります。 それ以上に、高速運転時には座席全体からビビるような振動が体に伝わり、1本脚と軽量化された座席からによるものなのでしょうか。 (この振動が「日本最高速の在来線特急が、今まさに最高速で走っている」というサインであれば、それも悪くないかも?!) 一方で背もたれ部分は、残念ながらかなり硬いです。 この座席、リクライニング角度がかなりの量まで倒れるので体全体を座席に任せることができるのですが、背中が非常に硬い。 そして腰部分が直線でスパッとクッション材を削り取ったような妙な作りになっているため、腰部分での押さえが全く効きません。 故に、リクライニングは浅めがオススメ。フルリクライニングだと居心地が悪いという、ちょっと勿体無い出来栄えになってしまいました。 座席背面には折り畳みテーブルと、その下には網ポケット。全体的にサイバーな雰囲気漂うデザインです。 シートピッチはAE100形より10mm広がった、1,050mm。前席の下部にも足が投げ出せるので、数値以上に足元が広く感じられます。 その足元、各席脚台の前後両面には電源ポートが2口づつ設置されています。 前席と自席の足元に電源ポートがあることになるので、一人で2口が同時に使えることになります。 パソコンを電源ポートで繋ぎながら使うことを想定してか、テーブルはA4大のノートパソコンが置ける大きさになっています。 このほか、座席は自動一斉回転機能を備えていて、終着駅での短時間清掃と折り返し運転に貢献しています。 |
車椅子対応スペースは5号車に。 | 座席は設置されておらず、車椅子に乗ったままで直接このスペースに入るようになっている。
車椅子スペース直近の席は、向きによっては前に座席がなくテーブルが使えない。 | それを救済するためか、窓側に小さな折り畳みテーブルが設置されている。
座席背面には網ポケット。ゴム製でよく伸びるので、かなり大きく口が開く。 | 画像の通りペットボトルもラクラク入る。ポケット下部はマジックテープ留めになっており、清掃効率を考慮している。
座席間のセンターアームレストは、持ち上げて座席間に収納が可能。 |
通路移動時の手掛かりとして、座席背面に上部にハンドルが設置されている。 | デザイン優先のようで、よろけた瞬間などにグリップに手が入りにくいため、やや実用性に欠ける。
座席台座の主脚には電源コンセントが2口。主脚の両面にあるので、自席下部も含めると1人2口が同時に使える。 | ただ、位置的にやや手を伸ばしにくいのと、座席周りにコンセント案内が無いため、使っている人は少ない。
窓框部分は、ブラインドガイド固定部分は幅が広くなっており、ペットボトル飲料などを置くことができる。 |
窓のブラインドは上下式のロールカーテン。フリーストップ式なので任意の位置でストッパーを掛けられる。 |
ヘッド部分のカバーには「SKYLINER」のロゴが刺繍されていて、ブランド効果をアップさせている。 |
座席主脚は中央1本なので、座席下に足を伸ばすことができる。 | 元々シートピッチが広めなので、さらに足元空間が広く感じられ、座った時には足元にゆとりが感じられる。
リクライニングは、アームレスト先端のレバーで操作。 |
天井は中央部分が一段高い丸天井となっている。 | 間接照明の効果ともあいまって、頭上もかなり広々とした空間に感じられる。
窓上部と荷物棚パーツの隙間には、各席個別の空調噴出し口。 | 黒いツマミをスライドさせると空調口が開いたり閉じたり操作でき、個人の好みに応じて寒暖調節ができる。
窓間には収納式のフックが設置されている。 |
ロールカーテンのガイドレールは樹脂パーツ。 | 透明感のあるパーツなので、窓の大きさと拡がりをスポイルしてしまうことなく車窓が楽しめる。
客室空間で座席の存在以上に目に飛び込んでくるほどのインパクトを持っているのが、この床。 | 日本の伝統柄である「市松模様」を山本寛斎流にアレンジし、まるで銀河星雲のような煌きが感じられる。
客室端部の壁上部には大型LDCディスプレイが設置され、大きな文字で各種インフォメーションが流れる。 | ディスプレイの大きさは26インチで、鉄道車両用としては最大級の大きさ。 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ |
サニタリースペースは、2代目「スカイライナー」のAE100形と同様、8両編成の中間部分、4号車と5号車の間に設置されています。 曲面で構成された大胆なレイアウト配置となっていて、洗面台と洋式個室、男性用個室、車椅子対応の大型個室が設置されています。 サニタリースペースは全体がアルミパネルで構成されており、近未来が舞台の映画のワンシーンのよう。 洗面台は通路に直接面して設置されていて、シンク部分も小さめで控え目な感じ。 プリーツカーテンがあるので、これで通路と仕切ることができ、化粧直しなどにも使えます。 トイレ内はブラックの大理石模様とステンレスシルバーのストライプ模様となっていて、これまでにない強烈な印象。 このあたりも山本寛斎流の、枠に囚われない自由奔放な演出のひとつでしょうか。 各トイレ個室にビルトインされた手洗い台のデザインも、今までの鉄道車両では見たことの無いもので、見どころのひとつ。 車椅子対応の大型個室は、オストメイト対応の多機能トイレとなっており、ベビーキープやベビーベッドも設置されています。 男性用トイレの便器はフランス製のものを採用しているそうで、これもまたシンプルで斬新なデザインとなっています。 |
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各号車ともデッキと客室の境目にバゲージスペースが設置されています。 AE100形では、空港特急としては有り得ない小ささだったバゲージスペースでしたが、新型ではAE100形の2倍の大きさになりました。 大型のスーツケースだと、立てた状態で5〜6個が下段に収まる広さと大きさで、滑り止めストッパーのバーも付いています。 荷物スペースは客室内に配置されているので目が届きやすいのも安心ですが、 さらに防犯カメラが左右2箇所に設置されているので、セキュリティ面では一層の安心が図られています。 4号車デッキには飲料の自動販売機とカウンターが設置された「サービスコーナー」があります。 AE100形の「サービスコーナー」は、かなり大きなスペースでしたが、新型ではささやかなスペースになりました。 とはいえ、3連の丸窓を配置して、バーのようなスペースに仕上げるなど、空間デザインとしては飛躍的な進化に。 乗車時間が短いため、車内移動の時間を考えると「わざわざ・・・」という気もしますが、ちょっと気分転換に使ってみたい空間です。 このサービスコーナーには、カウンター下に「AED」が設置されています。 |
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乗客がその車両に乗る時に、一番最初に触れる空間が「デッキ」になりますが、新型AEではデッキにもチカラが入っています。 まず、足元にはLEDのステップライトが煌々と光り、その先には客室と同じ宇宙空間を思わせる市松模様の床面。 手すりはブルーのグラデーション模様で、それが天地からLEDライトに照らされて、まるで手すりが宙に浮かんでいるかのよう。 壁面はアルミパネルで構成され、スポットライトに照らされて、パネルそのものが淡い光を放っています。 そして客室へと繋がるドアは、透明感あるフロストガラスで、この奥の空間への期待感を盛り上げるのに充分な美しさ。 デッキの乗降ドアは幅が1,000mmもあり、スーツケースを抱えていても余裕で乗降が可能な広さとなっています。 |