様々な国からの技術供与で「CRH」シリーズを生み出してきた中国の高速鉄道。 「CRH380B/BL」は、ドイツ・シーメンス社製のICE3型をベースに開発された「CRH3C」に国産部品の比率を多く用いたタイプ。 さらに国内中へと高速路線も拡大する中、大本命の京滬高速鉄道が北京南〜上海虹橋間に2011年6月に開業しました。 この京滬高速鉄道で最高速度380Km/hでの運転を目指して、「CRH380AL」と共に開発されたのが、「CRH380B/BL」です。 「CRH380B/BL」の「380B」は8両編成、「380BL」は16両固定編成という編成両数の違いがありますが基本構造は同じ。 「CRH380AL」同様に、16両編成で、編成内に「商務座(ビジネスクラス)」と食堂車を組み込んだ「CRH380BL」も京滬高速鉄道の主力車両。 しかし、2011年8月に中国鉄道部は「CRH380BL」に重大な欠陥があると発表し、運行中の全編成をリコールするという事態に発展。 そのため、開業したばかりの京滬高速鉄路は、いきなり定期列車の減便を強いられてしまいます。 その後は、リコール修理が終わった編成から、次々と営業運転へと復帰しています。 メインラインで看板列車として活躍する「CRH380BL」は、「CRH380AL」と共に、中国高速鉄道のフラッグシップトレインといえる存在です。 |
中国高速鉄道の車両の中でも、最高ランクの客席が「商務座(ビジネスクラス)」になります。 16両編成「380AL」型と同じく、3号車に設定されています。(1号車と16号車の「観光区席」については後述) 日本の東北新幹線E5系「グランクラス」と比較されることが多いですが、こちらはどちらかというと航空機座席に近いイメージ。 2+1の横3列席で、上海方面行きの場合は進行方向左が1人掛け席、進行方向右側が2人掛け席となります。 (2人掛け席と1人掛け席の配置は、CRH380ALとは逆となっています) 全8列で、総定員は24名というかなり贅沢な空間。 丸型のシェルに包まれるような座席は、後方から見るとまるで「繭」に包まれるかのような優しい曲面仕上げが美しいです。 座席はイタリア製の革製シート。リクライニングは電動によって好きな角度で止めることができ、最大でフルフラットになります。 フルフラット時のシート長は、約1,750mm。そのため、座席間のシートピッチは2,000mmを余裕で超える広さを誇っています。 座席脇にはフレキシブルアームによる読書灯、両肘掛内にはそれぞれ折り畳みテーブルと液晶テレビが格納されているほか、 外側アームレスト下部には電源パワーポートも備え、まさに、「装備できうるものは全て装備した超級シート」。 インアームテーブルはJRの新幹線グリーン車とほとんど同じ構造で、半面・全展開どちらでも使える仕様。 液晶テレビはタッチパネル操作で、映像チャンネルには「ニュース」「映画」「連続ドラマ」「バラエティ」など多数番組を収録。 音楽サービスもこの液晶テレビで操作し、「クラシック」「中華圏最新ポップ」「海外人気ポピュラー」などこちらも多数。 音楽を聴くためにはイヤホンが必要ですが、持っていない場合にはサービススタッフに言えばヘッドフォンが貸し出されます。 そのほか、雑誌や「人民鉄道」という新聞、スリッパが座席背面のポケットに入っています。 スリッパは、エアラインのビジネスクラスで配られるようなフカフカなもの。持ち帰り用にちゃんと巾着袋もセットされています。 車内には無線LANの電波が飛んでいるようで、iPhoneで試したみたところ「CRH2」という電波がキャッチできました。 特にパスワード入力なども必要ないようなのですが、なぜかネット接続はできませんでした。 「グランクラス」と大きく異なる点は、座席は乗客の手で回転させることができるので、例えば4人で向かい合わせで使うことも可能。 回転させるには、座席シェルのサイド外側下部にあるラッチレバーを引くと座席のロックが解除され、軽い力で回転します。 座席周りの充実設備に加え、さらに人的サービスも手厚くきめ細かく行われているのもこの「商務座」の特徴。 列車がまず発車すると、女性サービススタッフ(「高姐・ガオジエ」という名称らしい)がおしぼりとウェルカムドリンクを各席に。 その後さらに小菓子が配られ、ドリンクのお替りはいつでも呼び止めれば対応してくれます。 (ドリンク種類は、コーヒー・お茶・コーラ・スプライトなど数種類あり。ドリンクメニューなどが無いので詳細は不明) 座席をフルフラットにして寝ていれば、そっと窓のブラインドを閉めてブランケットを掛けてくれるというキメ細やかさ。 希望者にはアイマスクも配られ、北京−上海の4時間以上を寝て過ごしたいという人にはかなり快適に感じるはずです。 食事時に掛かる列車には、車内でレンジで温めるタイプのレトルト弁当と、カップスープが1人1食、無料でサービスされます。 座席は「CRH380AL」型のものとほぼ同じものですが、座席の肘掛などに木目調のパネルを埋め込んでいる違いがあります。 また、AL型では窓框部分に小物を置くことができますが、BL型の窓周りは斜めカット処理がなされているため、物を置くことができません。 この「商務座」を北京南駅から、もしくは上海虹橋駅から利用する乗客は、両駅に設けられた専用のVIPラウンジが利用できます。 ラウンジ内ではドリンクや軽食(お菓子の類)が無料で振舞われるほか、パソコンコーナーや小会議ブースも設置されています。 このように、座席や人的サービス、さらにラウンジまで用意されているという格別な充実が図られているのには、 北京−上海間で競合する国内線エアラインの上級クラスへの対抗意識が強いためといわれています。 3号車「商務座」のほかに、同じく「商務座」と同じ値段・扱いとなる「観光席」が1号車と16号車にあります。 これは運転席すぐ後ろの小空間「観光区」の最前列席で、ここは1+1の座席配列。 座席は3号車の「商務座」と同じものが設置されていますが、座席の回転はできないので、進行方向とは逆向きとなる場合もあります。 「観光区」の2列目は「商務座」ではなく、1ランク下の「一等座」となっています。 ここの「一等座」席はリクライニングができない、ただのソファー席となっているので、どちらかというとハズレ席の感が強いです。 上海虹橋方面行きの場合の先頭車は1号車、北京南方面行きの場合の先頭車は16号車となります。 ちなみに、「商務座」を北京南−上海虹橋間で乗り通した場合の運賃は、1,750元で日本円にして約21,000円となります。 (割引など何も無い、通常料金で利用した場合) また、上海列車段(上海局)受け持ちの列車と北京列車段(北京局)受け持ちの列車では、サービス内容が若干異なるようです。 ここれ紹介した画像のサービスは、全て、上海列車段(上海局)受け持ち列車の車内で撮影したものになります。 画像は一部を除き、「CRH380AL」で撮影した画像を流用していますが、座席そのものはAL型とBL型どちらもほぼ同じです。 掲載画像の一部は「駅旅・ゆけむり研究室」のcuroka様からご提供頂きました。無断転載は固くお断りいたします。 |
「商務座」よりひとつ下のランクの席が「一等座」となります。16両編成の「380BL」は1・2・4・16号車に設定されています。 (CRHの場合「一等座」は「First class」で「商務座」は「Business Coach」で、旅客機とはファーストとビジネスのランクが逆) 車内には深紅の座席が、2+2の横4列で並んでいて、それはJRの新幹線のグリーン席と似た雰囲気。 座席そのものも「E2系1000番台はやて型」のグリーン席をそのままデッドコピーしたかのようなそっくりさん。 座席ヘッド部分は、両脇がやや立ったデザインで、隣りの視線を遮るようなデザイン。 頭が当たる部分にはマクラが付いていて、これは上下可動式。自分の身長に合った最も良い高さに合わせられます。 外側のアームレスト内にはテーブルが収納されていて、展開後は半面、全展開どちらでも使うことができます。 センターアームレストが、日本の新幹線に比べて非常に細く狭いのですが、これはCRHの車内設計幅に合わせた仕様のため。 (車内客室空間の横幅が、JRの新幹線車両よりもやや狭いように感じるので、実際そうなのかもしれません) ボディはICE3型をベースにしているため、窓割りもICEのままなため、座席と窓割が横列のほぼ半分以上で合わない状態となっています。 「一等座」を購入して、「CRH380BL」に当たった場合、かなりの高確率で窓無しの窓側席に当たる可能性があります。 足元にはフットレストがあり、下ろした状態で土足面、さらに手前に展開した状態で素足で乗せるようになっていますが、 空席であちこち見てみたところ、展開状態の赤い生地面が土汚れしたものが多いので、中国ではあまり使い分けが浸透していない模様。 座席下部には、フタ付きの電源パワーポートが1つ。自席の手前側下にもあるので、2人でそれぞれ使うことができます。 アームレスト内側にはオーディオパネルが付いていますが、選曲などはできません。 車内で放映されている(客室壁面に液晶テレビが設置されている)映像プログラムの音声を聞くことができるようになっています。 座席背面にはポケットがあり、車内誌や新聞、ゴミ袋がセットされています。 16両編成の「CRH380AL」の両先頭車の運転室直後の「観光区」ゾーンの2列目席も「一等座」として販売されています。 この「観光区ゾーン」の一等座は、リクライニングできないただのソファー。左側の2人掛け席には仕切りすらありません。 一等座のチケットを購入して、1号車か16号車が発券された場合は、残念ながらハズレ席。 8両編成の「CRH380A」の場合の「観光区」ゾーンの座席は通常と同じ一等座席が設置されています。 京滬高速鉄道の高速タイプ列車(G列車)の一等座では、商務座と同じお菓子サービスがあります。(ドリンクサービスなどは無い) CRHシリーズの「一等座」席は、基本的に全てこの仕様で、どのCRHの一等座に乗ってもこの座席に座ることになります。 (一部画像は、E2系はやて型ベースの「CRH380AL」の一等座を掲載していますが、座席そのものは「CRH380B/BL」でも全く一緒です) |
編成中の多くを占めるのが、JR新幹線の普通車にあたる「ニ等座」座席車。 客室内は2+3の横5列で座席が並び、客室全景で見るとJRの新幹線にそっくり。 シートピッチは、おそらくE2系ベースのCRH2型に合わせていると思われ、980mmピッチだと思われます。 リクライニング機能のみを持ち、座面スライド機能は付いていません。 こちらでも、ボディがICEベースのため、座席と窓割が合っておらず、窓無しの窓側席が多く発生してしまっています。 座席背面には、収納テーブルとマガジンポケット。ポケットには車内誌とゴミ袋がセットされています。 シート間のセンターアームレストは、座席間に収納が可能となっています。 (画像は、E2系はやて型ベースの「CRH380AL」の二等座を掲載していますが、座席そのものは「CRH380B/BL」でも全く一緒です) |
8両編成の5号車と、16両編成の9号車には食堂車があります。 食堂車といっても、調理されたものが提供される食堂方式とは違い、レトルト食品を売る「ビュッフェ」のようなもの。 4人掛けテーブルが数卓と、スタンドバーがあります。 4人掛けテーブルには窓上に座席番号が振られています。 これは、二等座席が満席になった場合、この食堂車の座席も二等座席として販売されるため。 そのため、本当に満席の列車だとこの食堂車も二等座席の切符を持った乗客で満席ということもありえます。 ちなみに、ここでの販売品はレンジ調理のレトルト食品やお土産品、お菓子がジュースといったものが中心。 「CRH乗車記念グッズ」を扱っている場合もあります。 デッキはドイツのICEのインテリアをそのまま流用しているのか、「CRH380AL」とは違い木目調のカーブデザインが美しい。 デッキ仕切りドアは全て全面ガラスとなっていて、これもドイツのICEのインテリアを思わせます。 また、1車両の1ヶ所づつくらいの割合で熱湯の出る給湯器があります。 これは、昔から車内でお茶を飲むための設備として中国で根付いているもので、客車列車時代の設備が最新高速列車にも。 トイレ位置は車両によって北京方・上海方とバラバラで、「CRH380AL」のように位置統一が図られていません。 商務座・一等座のトイレは広く、洋式トイレと広い洗面台が一緒になったタイプ。 この2クラスは列車員がまめに掃除をしているので、いつも比較的清潔感が保たれています。 ニ等座のほうは、新幹線と同じく、洗面台と洋式個室と中華式個室がそれぞれ独立したタイプとなっています。 こちらは利用者が多い分、車内での清掃も間に合わないようで、あまりキレイとはいえません。 食堂車の画像は「CRH380AL」で撮影した画像を流用しています。「CRH380BL」では座席の色が深い紺色のものとなっています。 |