JR九州 885系  特急 白い「かもめ」
KAMOME EXPRESS 885



883系特急「ソニック」登場から5年。
JR九州が満を持して世に送り出した、新世紀に向けてのメッセージ。それこそがこの「白いかもめ」。
多くの車輌開発で培ってきた多様な技術は、「素材」と「伝統」をどう調和せしめたのか。
「和」の魅力を秘めた「海鴎」は、今、大海原へと飛び交い始めた。





グリーン車




グリーン車は半室構造。フローリングにブラックのシート。「つばめ」「ソニック」とは全く異なった趣きで、実にシックです。

座席には本革が採用されています。車内は「革」特有の匂いが漂い、ホームでドアが開いた瞬間から革の匂いを感じます。
人間の嗅覚を刺激させる、今までの鉄道車両にはなかった演出ですが、
独特な匂いなだけに、この匂いが苦手な人にはちょっとツライかもしれません。

「革」とはずいぶんと高価な素材を使っているように感じますが、当然ながらそんなにコストを掛けられる部分でもなく、
この座席には「傷モノ」や「ハンパもの」といった通常の革製品の販売ルートではハネられてしまうものを積極的に利用。
こうした革素材は安い値段での仕入れが可能だそうで、コストを掛けずに高級な素材を使うことができたそうです。
普通なら捨てられてしまうものを「再利用」したという点から、エコロジー志向でもあります。
床のフローリングは「天然木」。885系でJR九州は「革」や「木」といった「自然素材」での勝負に出ました。

1+1+1の3ブレストで4列を配置。定員12席で「ソニック883」よりさらに3席少なくなっています。
シートピッチは1,150mm。2席側はそれぞれが独立して設置されていて、実質全席が1人掛け席になっています。
各席とも台座も独立しているので、2席側も窓側は長崎方向、通路側は博多方向を向けて展開させることも可能。


最上級の品質と雰囲気を漂わせるグリーン客室ですが、座席単体では、とても及第点には遠く及ばない座り心地です。
座席表面の革が大変滑りやすい素材で、ボディホールド感が全くありません。
リクライニングを倒すと身体がズルズルと前方に滑ってしまい、普通に座るだけでも堪え性がありません。
さらにこれが振り子特急というから大変です。走行中には、振り子作用と同時に身体が右に左にも滑り出す始末。
フットレストがあれば、多少とも足の踏ん張りようがあったかもしれませんが、残念ながらフットレストは未装着。

椅子の下方からニョキと生えたレバーは、ブルーのがリクライニングで、レッドのは座席の回転です。
登場当時はイエローのレバーで座席の高さを変えられましたが、この機構は取りやめになり、レバーも撤去されました。
テーブルは背面でもなくインアームでもない、それぞれに独立した木製テーブルがついています。



デッキにはグリーン室入口から客室まで短いアプローチ部分があり、ここに専用のサニタリーとサービスコーナーがあります。
サービスコーナーは「喫煙ブース」になっていて、おタバコはこちらでどうぞ…。

ここには小さな冷蔵庫があります。もともと「かもめ」では客室乗務員の乗車を予定していなかったので、
グリーン車乗客へのドリンクサービスはセルフサービスで
この冷蔵庫から個々に持って行くというのを想定して営業を始めたのですが…。
その後、「衛生管理上の問題で」ということでこのセルフサービスは無くなったのですが、
恐らくは普通車の乗客の 持ち去りがあとを絶たなかったから…というのが本当の理由でしょう。

「成田エクスプレス」のグリーン車ミニバーもそうだったように、
日本人の公共モラルの低さを露呈する結果で終わってしまいました。
結局、ドリンクサービスは車内販売員がドリンクを配りに来るという方式で継続されています。






普通車




九州の新型特急の普通車といえば、783系ではデッキを車両中心に、787系では客室に真ん中に荷物置き場を、
883系では「センターブース」で1つの客室を2分してきましたが、885系からは一般的な客室レイアウトになりました。
そのせいか、九州の特急を乗りまくる旅では、885系の客室がやけに「ストン」としてだだっ広い印象を受けます。

シートピッチは787系・883系より若干狭めの980mm。
座席の足元が広々としていて、座席の台座が1本足支柱なので前の席の下に足をグンと伸ばすことができ、
着座感覚としては787系などの1,000mmと比べても遜色ありません。

テーブルはインアーム式。「ゆふいんの森3世」から始まった方式で、センターアームからテーブルを引き出します。
向かい合わせで全てのテーブルを引き出すと、中央に大きなテーブルが出現するようになっています。
喫煙車の座席には、外側のアーム部分にミルクピッチャーのようなカプセル型の「灰皿」が付いています。

見た目には「グリーン車級」の普通車。実際、登場直後は多くの乗客がグリーン車と間違えたという逸話も残していますが、
座席の座り心地は、これまたグリーン車同様最悪のボディーホールディングを誇ります。
グリーン車に比べれば、普通車の方が座席幅が狭いので横滑り感が少ないだけマシかもしれません。
白い「かもめ」に乗るなら、私は間違いなく普通車の方をすすめます。
なお、九州の特急といえば「普通車にもフットレストバー」でしたが、885系からはこれがなくなっています。

6両編成のなかで、実は普通車はいくつかのバリエーションがあります。
2号車の座席には、センターアームレストの下方にパソコン用の電源ジャックを装備していて、
車内で電源を確保しながらノートパソコンを使うことができ、アダプタがあれば携帯電話の充電も可能。
こちらは別配線で電源が確保されているので無電源状態になることはありません。
3号車は「落ち着き空間」をコンセプトに、壁面やハットラックをグレーで塗り、照明の光量を若干落としています。

6両の短い編成でも用途に応じて席が選べるのは、乗客にとってうれしい配慮ですね。







デッキ


「つばめ」「ソニック」と同様に、各車輌のデッキの趣きは異なります。
「ソニック」がカーブ面で構成されたアルミパネルを多用していたのに対し、こちらはモノトーンで直線的。
2号車のテレフォンブースは片方は携帯電話専用になっています。
この2つの電話ブースは、室内の仕切りパネルを動かすことができ、パネルを取り払うと「マルチスペース」にも早変わり!

デッキと客室を仕切るガラス戸は「和紙」を挟みこみ、独特な半透明を演出しています。

5号車デッキにはブルーリボン賞とブルネル賞の受賞プレートが誇らしげに飾られています。
885系は2001年度のブルーリボン賞を圧倒的な得票率で受賞。
さらに、国際鉄道デザイン大賞のブルネル賞を長距離列車部門で受賞するなど、国内外から高い評価を受けています。

各車輌のデッキにはコモンスペースを設置しています。
実はベンチの配置やスタンションポールの有無などで、全てのコモンスペースは表情が異なります。
ハイトタイプの大型窓から眺める景色は、席で座って眺める景色とはまた格別。
各スペースとも簡単なカウンターと液晶ビジョンを設置しています。



2号車の大型レストルームを備えるデッキはまるで美術館の展示ブースか、街中のギャラリーのよう…。
編成によって「書」の内容は異なり、かもめ号に乗るたびに違った作品を見ることができるかも。
これらの「書」は福岡出身の書家「四宮祐次」氏の作品だそうです。

このほかにも、編成中のデッキのいたる場所に「かもめ」号のイラストが飾られています。
これらのスペースは、元々は「広告スペース」として用意されたようですが、
事のほか「書」やイラストは好評のようで、現在も広告を差し替えられて使われたことはないようです。






ミニショップ サニタリー コックピット

     
     

3号車のデッキにはミニショップがあります。「かもめ」号は「ソニック」系統と同じく、「かもめレディ」の乗務は基本的に1列車に1人です。
そのため、車内販売員として車内を回っていることが多く、「ショップ」というより「車内販売準備室」としての機能の方が大きいようです。
ちなみに、灰色のスクリーンを上げると、中には対面販売用の簡単なカウンターが設けられています。

2号車ギャラリーコーナーの迫り来る「書」の向こう側には、大型の車椅子対応サニタリーコーナー。
「ソニック」の眩いばかりのアルミパネルのトイレとは異なり、落ち着いた雰囲気。
赤ちゃんを連れた方でも、ゆったり用が足せるように「ベビーシート」が設置されました。
そのほかのサニタリーコーナーには「男性用」「女性用」が設けられていますが、いずれも「洋式トイレ」を備えた個室になっています。

1号車・6号車とも、運転席の直後は全面ガラス張りになっています。
しかし運転台が高めに位置しているのと、急な曲面で構成された先頭形状のため、客席からの展望はほとんど見通しが利きません。
展望席というよりは、「運転席を見せる」という演出要素の方が大きいようです。

ちなみにこのシースルーガラスは運転台のボタン1つで完全なスモーク状態に切り替えが可能。
さらに非常ブレーキ作動時にも全自動でスモーク状態に切り替わり、客室に「緊急事態」が生中継されないようになっています。








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