国鉄の分割民営化後に、JR東日本が初めて開発した新型特急がこの651系。 常磐線の利用客のニーズに合わせてビジネスタイプに特化したコンセプトで、続々と登場する地域密着型車両の先駆けとなりました。 列車愛称は公募により「スーパーひたち」となり、その後の「スーパー特急」ブームの走りでもありました。 外観は、それまでの無骨なスタイルの国鉄型車両から完全に脱却し、先頭車は旅客機のような流れるストリームラインとボンネットで形成。 ホワイトとグレーで塗られたシンプルさともあいまって、スタイリッシュなエクステリアからは「タキシードボディ」の愛称が生まれました。 車内アコモデーションも、当時はまるで未来から来た電車かと思うほど、これまでに見たこともない斬新な空間となりました。 内外装ともデザインは、「T.D.O(トランスポーテーションデザイン機構)」が担当しています。 1989年の登場以来、他線区への転属もなく全99両が黙々と常磐線を行き来する日々を送ってきた651系。 しかし、23年目の2012年3月についに後継車両「E657系」のデビューにより、大幅に運用数が減少。同年10月には完全引退となります。 |
流麗な外観に負けないくらい、車内インテリアもそれまでの国鉄型車両からは想像も付かないくらい斬新なデザインが展開されました。 グリーン車は、大形のハイバックシートが3列配置で並び、まるで旅客機のビジネスクラスを思わせる圧倒的な迫力を持った空間に。 現在の「スーパーひたち」のグリーン車は、登場時の姿から数えて3回目のリニューアルが施されたものとなっています。 シートピッチは1,160mmで、昔からのグリーン車の標準ピッチですが、座席が巨大なためそれすらも狭く見えるほど。 座席全体がモケット張りとなっていて、それは座席背面からヘッド部分脇にまで及んでいます。 登場当時は様々な付帯サービスが話題となりましたが、現在の座席周りの設備は、背面収納テーブルと頭上の読書灯くらい。 ひざ掛け毛布は車掌室寄りのバゲージスペースに置かれていて、セルフサービスで自由に使用することができます。 |
1989年3月11日、JR東日本初の完全新製・新型特急651系「スーパーひたち」が誕生。 ダイナミックで流麗なタキシード・ボディは、驚きと羨望のまなざしで迎えられました。 美しいエクステリアもさることながら、この「グリーン客室」インテリアに「新時代の到来」を感じた人も多いことでしょう。 ピッチ1,160mmで大型のシートが3アブレストで並び、上品な間接照明と蓋付き荷物棚「ハットラック」が魅せる奥行き感。 オーディオサービス用のヘッドフォンが配られ、深くリクライニングを倒すと専任のレディが「コーヒーをお持ちしました」・・ まるで新幹線と同等の、いやそれ以上の「サービス」が大きな話題となりました。 このグリーン席は当初から液晶テレビが設置されていたように思われていますが、 実は液晶テレビは1989年の夏から、1編成で受信放映の試験がてらサービスが行われ、 翌1990年の増備車両から正式に液晶テレビが設置され、テレビ放映サービスが始まっています。 651系「スーパーひたち」のグリーン席は、2001年の大幅リニューアルまでに2回のマイナーリニューアルが施されています。 1度目は1995年。初代の濃紺のモケットがパープル系の明るい色に変わりました。 この時点では、各座席のインアーム収納式の液晶テレビは継続装備され、放映も続けられていました。 2度目のマイナーリニューアルは2000年。元々「スーパーひたち」のグリーン車は客室をパーテーションで仕切って、 禁煙席/喫煙席の両方を設定していましたが、2000年12月2日のダイヤ改正で全面禁煙車となり、 分煙パーテーションの撤去とパーテーションのあった位置に座席を移設させる工事が順次行われました。 この時点で液晶テレビは全車全席から撤去され、モケットも細かいトライアングル模様を組み合わせた 青紫色のものに変わりました。(細かい点ではシートのサイドカバーの意匠が若干変わっています。) グリーン車専属の「スーパーひたちレディ」は1989年から1993年頃まで、上野−水戸間で乗務して、 コーヒーサービスやオーディオイヤホンやひざ掛け毛布の貸し出し配布などをしていました。 乗務終了後から1996年頃までは、ドリンクサービスは車内販売員によって無料提供され、 イヤホンやひざ掛け毛布はラゲージスペースからセルフで持っていく方式に変わりましたが、 いつの間にか、これらのサービスは全て終わってしまいました。 さらに2004年の6月からは、座席を設置して定員を増やす工事が始まりました。 これは、客室上野方に残っていたパーテーション台座を撤去し、そこに3席の座席を増設するというもの。 増設された座席が1番列に変更されたので、眺めのよい座席番号は、下りが奇数列・上りが偶数列になりました。 |
普通車も、グリーン車以上に飛躍的なサービスアップがなされました。 ブルーのシートモケットとホワイトグレーの化粧板、床はナチュラルグレーで、クールな「大人の空間」を演出。 メインライトに間接照明を用いて、荷物棚の下には全席に個別の読書灯が設けられました。 シートピッチは485系「ひたち」の910mmから、970mmへと大きく拡大されています。 シートはもちろんフリーストップリクライニング機構を標準装備、アームレストは腕に掛かる部分に革張りを施しています。 グリーン車同様、普通車も2001年度の大幅リニューアルまでに、2回のキャビンリファインが行われています。 1995年のリファイン工事では、基本7両編成のシートモケットがレッドパープルに変わり、車内の雰囲気が一新しました。 この時点では、付属4両編成は登場当時のブルーのモケットを継続。 「スーパーひたち」は途中駅で増解結が行われるので、「誤乗防止」の意味合いを持たせた施策と思われます。 そして2000年のリファインでは付属編成もレッドパープルのモケットに変更。登場初期のクールな雰囲気は失われてしまいました。 現在の普通車の姿は、2001年の大幅なリフレッシュ工事後の普通車客室です。 スマートで未来的な印象だった座席は、グリーン車同様に大幅に手が加えられ、厚ぼったい重々しい雰囲気に。 見た目の印象は野暮ったいものになってしまいましたが、「座席」としては良い掛け心地を維持しています。 座面のクッションは、E653系「フレッシュひたち」など最近の最新鋭特急と比べるとかなり柔らかで、フカフカした掛け心地。 背面部分も、背中を大きくもたれかかった際にはクッション材が背中を包み込んでくれる感覚があります。 リクライニングがけっこう大きく倒れるのですが、背面部分の高さがちょっと寸詰まりのためか、頭部分の高さが足りません。 そのため首から頭にかけての部分のフィット感に違和感アリ。腰掛けていて、このウィークポイントは勿体無く感じます。 短くカットされたセンターアームレストは、正直「腕を掛ける」という本来の用途を見出せないものとなってしまいました。 サイドアームレストの意匠も変わり、座席全体の雰囲気を大きく損ねています。アームの革部分も短くカットされました。 そしてグリーン席同様、バックシェルがモケット張りに変更されています。 荷物棚下には各席に読書灯が設置されています。登場当時の会社側の意気込みを感じさせる部分ですね。 カーテンレールに沿って設置されているフックは、カーテン同様に左右に動かすことができます。 照明はムーディな間接照明からギンギンに明るい直接照明に変わり、室内は以前に比べかなり明るくなりました。 |
鉄道車両のトイレへの「暗い」印象を大きく覆したのが、651系のサニタリーコーナー。 FRPを多用したユニット構造を採用して、タイル張りで発生する黒ずんだカビカビしさを一切排除。 照明も格段に明るくなり、登場時には洋式トイレの便座には自動交換装置を組み込んだ便座シートまで装備していました。 (この便座シートの自動交換装置は、現在全ての個室から撤去されています。) 洗面台は赤外線センサーによる自動出水式。シンクの脇にあるつまみでお湯の温度が自由に設定することができます。 なお、651系では登場当初から「和式トイレ」を設置しておらず、これも当時話題になりました。 3号車は車椅子対応設備が設置されているので、デッキ周りや乗降ドアが大きくなっています。 デッキドアの色は2種類。客室側はマスタードイエロー、デッキ側はグランドブルーで塗られ、空間区分を意識しています。 電話コーナーは、登場当初は1号車・4号車・8号車に設置されていましたが、現在は撤去が進んでいます。 この電話は上野−日立間での利用に限られていて、取手−藤代間のデッドセクション通過中も利用できません。 自動販売機は2号車・5号車・9号車に設置されていましたが全て撤去されました。 常磐線の沿線はゴルフ場が非常に多く、ゴルフでの利用者を見越して一部の車両に大型荷物コーナーが設けられました。 3号車には「多目的室」があり、授乳や気分の悪い時には車掌に申し出れば誰でも使えます。 今でこそ、特急車には当たり前の設備ですが、この設備を初めて具現化したのは651系が最初でした。 運転台にデジタル表示のモニタを本格採用し、各車の照明・空調の状況を表示、異常発生箇所も一瞬で デジタル信号で送信されるという、「最先端テクノロジー」を多く詰め込んだ、最新鋭機器満載の運転席でした。 また、651系のキャノピースタイルの運転席は、この後に登場する新型車にも大きな影響を与えました。 |