JR九州 58654号機+50系客車 「SL人吉」

  

1922年・大正11年生まれ。現存する動態保存の蒸気機関車の中では最古の存在となる8620形蒸気機関車の58654号機。

1975年に火を落とし現役引退し、熊本県人吉市にて展示保存されることになりました。それから13年。
日本各地で広がりを見せていた蒸気機関車の復活運転に、JR九州も58654号機の修復・復活運転を決定。
1988年に熊本から阿蘇高原へと走る「SLあそBOY」の牽引機として、華々しく復活を果たしました。

一度は徹底した整備の元で生まれ変わったとはいえ、大正生まれという古豪に「老朽化」の痛みは徐々に進行。
台枠が歪み始めたところから各部に異常が廻り始め、運転不能に陥るなどにより、2005年8月が最終運転となり2度目の現役引退。

しかし、JR九州は手塩にかけた58654号機をすぐに手放しツブすことなく、再びの復活運転に賭けて様々な方法を模索し始めます。
結果、この58654号機が生まれた工場に図面が残っていたことが奇跡を呼び、再びの台枠の作製が可能となり一気に復活への道が開けます。

そして2009年。熊本−人吉間に「SL人吉」が運転開始。58654号機は「走る蒸気機関車」として、再び姿を現しました。
「SLあそBOY」時代にずっと連れ添った客車も大規模な改造が施され、58654号機ととも復帰。再びの「連れ添い」として復活しました。








普通車

「SL人吉」で使われる客車は3両編成。
「SLあそBOY」時代からの客車ですが、以前のウェスタン調の面影をほとんど留めないほどの大改造が行われています。
3両ともラウンジやビュッフェなどのパブリックスペースに空間を割いているので、乗車定員はあまり多くありません。
そのためか、普段から「SL人吉」は指定券が非常に取り難い列車で、連休中や夏休み期間などにはプラチナチケット状態です。

編成は、←人吉方 1号車−2号車−3号車 熊本方→ の組成となっています。
各車両とも客室中間部分にショーケースが設けられ、ここを境目に客室の雰囲気が異なるものとなっています。
1号車はメープルウッドなど白っぽい種類の木材をメインに、人吉方が黒革の座席・熊本方が黒系の市松模様の座席。
2号車はペアウッドなど赤みがちょっと強い木材をメインに、人吉方が緑系の市松紋様の座席・熊本方がワイン色の革の座席。
3号車はローズウッドなどのかなり濃い目の木材をメインに、人吉方が茶系の市松紋様の座席・熊本方が茶系のドット模様の座席。

座席は基本的にボックス式に展開していて、窓割り合わせのために一部2人掛け席となっている部分があります。
ボックス間のピッチは、窓割に合わせるためか、2号車は広く、1・3号車は狭い設定となっています。
ボックス間には大形の木製テーブルが固定据付となっていて、これも固定型・折り畳み型など一定ではありません。
座席幅は大人2人が並んで座るとギリギリで、横方向にほとんど余裕がありません。

気心知れた仲間同士でボックスに座るなら楽しめそうですが、もし狭いピッチの区画に見知らぬ同士が押し込まれると、
その距離感があまりに近すぎて、「旅先で顔を合わせて始まるコミュニケーション」へ至るまでに、若干気まずい雰囲気が漂います。
ボックス席ならやはり全ての区画に、JR東日本の「SL奥利根」号や「SLはんえつ物語」号の12系客車くらいの広さが欲しいところです。

背もたれ部分がほぼ直角なので、ゆったりもたれ掛かる感じはありません。クッション材がフカフカなのが救いです。
革製の座席だと、革の張りがやや強めなのであまりフカッとした座り心地は感じられませんでした。
革座席の区画の雰囲気は日本離れしたシックな印象が楽しめますが、座って過ごすとなると他の座席の方が若干なりともゆったりできます。


あまり居住性が良くないような感想ですが、車内の雰囲気はどの車両・どの区画とも独特な雰囲気があり、目で楽しむことができます。
つまり、今までに見たことも感じたことも無いような、日常からかけ離れた「リゾート列車」「イベント列車」に徹底したものがあり、
また、客席以外にもラウンジコーナー・ビュッフェ・SLライブラリなど、パブリックスペースが充実した列車なので、
座席を離れて、車内をあちこち見て廻りたくなる仕掛けが多く、結果乗車中もあまり座席に着いていない時間が多い列車となっています。



ダブルルーフ天井には、58654号機の愛称でもある「86(ハチロク)」がモチーフとなった欄間がはめ込まれています。
照明は全て丸型のレトロなカバーが使われ、蛍光灯が剥き出しとなった無粋な客席空間はありません。
窓の遮光にはブラインドが使われていて、車両によってカラフルなもの、木材を使ったものなど異なったものが装備されています。
1号車のデッキ方には車椅子スペースが設けられています。(1号車デッキには車椅子対応のトイレも設置されています。)









コモンスペース

1号車と3号車の車端部は展望ラウンジとなっていて、誰も自由に利用することができます。
やはりここも双方で雰囲気や据え付けられているファニチャーが異なっていて、また、進行方向によって機関車が目の前に見えたり、
流れゆく景色がガラス張りの窓から眺められたりと、楽しみが異なるので、ぜひどちらも訪れて見たくなります。
展望窓の真ん中に設置されている小さな椅子は、もちろん子供用の「キッズチェア」。

展望ラウンジ以外にもコモンスペースがこっそりあり、それが3号車デッキ寄りの「ミニSLライブラリー」。
2人掛けほどのソファーに本棚が設置されていて、本棚には鉄道やSLに関する書籍・絵本・写真集が収められていて、
乗客はいつでも好きな時にここに腰掛けて、SLの雄姿を写真集で眺めたり、SLの知識を書籍で知ることができたりします。








サービスコーナー

2号車の熊本方にはビュッフェが設けられています。
「ゆふいんの森」号や、かつての「つばめ」号のビュッフェと比べるとこじんまりとしたスペース。
そのため、乗客が物品購入のためにここで行列を成してしまい、始発駅から終着駅まで常に混雑しています。
通路側には木製カウンターが設置されていて、ここに立って景色を眺めながら食事をすることが想定されているようですが、
残念ながらその混雑っぷりに、ここで食事をするようなことができるような雰囲気ではありません。

ホットミールはメニューにはありませんが、弁当や沿線のご当地グルメのほか各種お土産・グッズなど、品揃えはかなり豊富。
時折、客室乗務員さんが籠を抱えて車内販売に来ますが、アイスクリームやスイーツなどの限定されたものばかりなので、
やはり買い物をするためにはこのビュッフェに出向く必要があります。








サニタリー デッキ コックピット
   
   

トイレは1号車と3号車のデッキに。いずれも洋式個室。1号車のトイレは車椅子対応となっていて、広めの個室となっています。
洗面台は独立して設けられておらず、いずれも個室内にビルトインされた小さな手洗い台となっています。

SLの運転台の写真は、人吉駅発車前に出発準備を一通り終えた運転士さんが撮って下さいました。
この時は運転台に入れてくれるサービスは無かったのですが、運転士さんが「運転台の中を撮ってあげるよ」ということで、
希望者はカメラを手渡し、運転士さんが中を撮ってくれるというサービスがありました。








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