1994年9月。世界に向けて、成田空港に次ぐ日本の大きな玄関口「関西空港」が開港。 この空港アクセスで、鉄道ではJR西日本と泉州沖沿いに路線展開している南海電鉄が担うこととなりました。 両社が空港アクセス専用の新型車両を開発。南海電鉄が用意したのは、“鉄仮面”こと「空港特急・ラピート」 挑戦的なフォルムとインテリア・そしてドイツ語の愛称は、未来派志向の日本離れしたイメージを強烈に焼き付けるもの。 一方のJR西日本が生み出したのは・・・柔らかなインバースラインを描く先頭形状とボディに純白を纏った281系。 英名を冠した愛称が多かったこの頃ですが、新しく決定した空港特急の愛称は−−−「関空特急・はるか」。 古来日本の政治と商業の中心であった「京都」と、伝統と文化の「和」を現代風に表現したエクステリア。 そしてこれから遠くへと旅立つ人へ、その旅路の先にあるものに希望を抱かせるような「はるか」の愛称。 近年稀に見る「日本の伝統美」を感じさせる281系。今日も遥かな旅の始まりと終わりを乗せて走ります。 |
大きく、スクエアな座席が3アブレストで並ぶグリーン客室。 その座席形状からか、直線的で整然とした雰囲気を漂わせています。 碁盤目状に「整然とした」街の並びをしていた古都・京都をイメージ・・・なんて表現は飛躍しすぎでしょうか。。。 対抗馬「ラピート」のスーパーシートに見られるような派手さとは好対照で、 しっとりと落ち着いた雰囲気は、JR西日本の新型特急車に「日本の伝統美」を刷り込んだかのよう。 そう、この「はるか」が求めたのは、視覚に激しく訴求させるものではなく、安定感のある「おだやかさ」です。 シートピッチは1,160mm。フリーストップリクライニングは最大20度までの傾斜が可能。 ピローは固定式で、最近のトレンドである上下可動式にはなっていません。 このピロー、そしてインアームテーブルは、どっしりとしたフォルムの座席には不釣合いなほどの小ささ。 空港アクセスに特化した車輌ということで、乗車時間も考慮してこの大きさになったのではないかと思われますが、 やはりグリーン車座席(しかもA特急料金)にしては、見た目にやや物足りない感は否めません。 海外鉄道の「コンフォート・ワン」「ファースト」にあたるクラスですから、海外からの訪日観光客がどう感じるところか、 コストとのバランスも含めて、ぜひ本音の感想を聞いてみたいところです。 座り心地に関しては、格段文句のつけよう点も無く、全体的にバランスの良いものでした。 欲を言えば、ヘッドレスト部の張り出しがもっと大きく、視覚的な独立感が高められればよかったかな、と。 個人的には、目に優しいウォーミィな間接照明と、荷棚下に貼られた化粧生地が醸し出す雰囲気がグッド。 派手でもなく、寒々しくも無いシートモケットとともに、「はるか」のコンセプトを感じさせる点でもあります。 |
普通車は、シートモケットにここ数年来のトレンドであるアースカラーを採用。 濃淡のツートンベージュは、地元関西の方にはアーバンネットワーク「新快速」を思わせるのではないでしょうか。 リネンはデビュー以来「イエロー」を固持しており、このイエローが電球色の照明と相まって派手やか。 心躍るような色彩空間の中にも、おだやかさを感じさせる雰囲気は、秀逸な出来栄えです。 シートピッチは970mmで、一般的な数値。座席は全体的に線が細い印象を受け、「軽さ」が目立ちます。 バックレストは薄めで、リクライニング角度もかなり浅め。背面収納テーブルもありません。 アーム先端に収納されるテーブルは「サンダーバード」などのそれよりさらに小さく、 当初の最大乗車時間に応じた上での設計とはいえ、これではテーブルとしての役割を到底果たせません。 フットレストも装備されていませんが、座席が片足支持式となっているので、前席の下へ足を伸ばせます。 車椅子対応席は3号車に、2席が設置されています。 自由席となる5号車・6号車と、後年増備された付属編成の7〜9号車には座席肩部に取っ手が取り付けられています。 |
空港特急の必需設備である「ラゲッジスペース」。「はるか」でももちろん全てのデッキに設置されています。 「ラピート」の荷物収納スペースがデッキ仕切りドアの客室側になるのに対し、「はるか」ではデッキ側になります。 このほか、サニタリスペースの余剰空間に長物荷物収納スペースが設けられており、 ゴルフバッグやスキー板など、長いものの収納を可能としています。 6号車には、大きなJRマークとスクエアドットが描かれた、窓の無い部分があります。 ここは荷物室となっていて、JRマークの部分が大型のスライドカーゴドアとなっています。 登場当時、京都駅に「K-CAT(京都シティエアターミナル)」が設置されていて、ここで搭乗手続きをすることができました。 その際に乗客から預かった荷物をこの荷物室に積み込んで、関空駅到着後に荷物を旅客機へ直行させるサービスを行っていました。 この「K-CAT」は利用者が少なかったため、数年で閉鎖。現在、このカーゴルームは巨大なデッドスペースとなってしまいました。 |
サニタリースペースは、JR西日本のほかの新型特急と共通したモダンな雰囲気。 3号車にはカーペット敷きの踏み床と大型ドレッサーミラーと洗面台を装備した「着替え室」があります。 ベビーベッドは、この「着替え室」に設置されています。 デッキの乗降ドアは、スーツケースを抱えての乗車を考慮して、間口がかなり広く設計されています。 そして乗降ドア付近は、動線の妨げとなる仕切り壁や機器収納スペースの出っ張りが極力抑えられていて、 かなり広々としているので、荷物を抱えての立ち回りがかなり楽にできるようになっています。 「はるか」は世界の動向を一早くキャッチして、登場当時から客室内の全面禁煙に踏み切りました。 そして喫煙者のために、デッキには簡単なパーテーションで仕切られた「喫煙ブース」を設けています。 乗降ドアを挟んで客室とは反対側に設置されているため、煙が客室に流れ込むようなことはまずありません。 もちろんブース内には、強制換気装置が据え付けられています。 そして喫煙ブースの前には、電話ブースと飲料の自動販売機が設置されています。 運転室には緊急時の脱出用貫通扉があるため、運転台はかなりコンパクト。 「地下走行を想定して」の貫通先頭形状らしく、「JR難波」駅への運転計画でもあったのでしょうか。 ちなみに、この貫通ドアは幌を有していないので、先頭車同士の連結の際も貫通ドアは開かれず、双方の編成を行き来することはできません。 |