特急「あさま」号で碓氷の峠を越えた日々は、遠き日の思い出。 1997年、「あさま」の愛称を長野新幹線に譲り、189系は信州から甲州特急「あずさ」へ、房総特急へと舞台を移しますが、 E257系の登場でいよいよ活躍のステージは狭まり、「特急」としての檜舞台も風前の灯。 首都圏では183系と混成となった189系が「中央ライナー」で、かつての「あさま」色と纏った189系が「妙高」号で、 そして繁忙期の夜行中央快速「ムーンライト信州」で最後の活躍を続けています。 |
国鉄然とした古めかしいアコモの189系に、リゾート志向の大改造を施した「グレードアップあさま」が登場したのは1990年7月27日。 高原へと向かうリゾート特急をイメージさせるには充分な、上品でシックなグリーンとグレーのカラーリングに生まれ変わりました。 この「グレードアップあさま」号の目玉は、なんといっても3列配置の大型ハイバックシートに換装されたグリーン車。 同じく上野口の特急として運転数を競った「スーパーひたち」651系グリーン車のイメージに近づける改造がなされ、 格子柄の明るいシートモケット・セミハイデッキ構造の床で「リゾート列車」を演出して、「新型特急」並みのアコモとなりました。 側面窓も従来の645mmから745mmへと開口部が広げられ、眺望面でもサービスアップが計られています。 長野新幹線開業後、「グレードアップあさま」編成の189系は「あさま」号から「あずさ」号へとステージを移します。 アイビーグリーンのシックなボディカラーは、「あずさ」系統のアルパインブルーへと塗り替えられ、車内も「あずさ」仕様に衣替え。 グリーン車では、モケットがオシャレな格子柄のものから、ブラウン一色のモケットに張り替えがなされ、 「グレードアップあさま」時代の片鱗は、徐々に消えていきました。 現在、このグリーン車は「中央ライナー」で体験することができます。 シートピッチは1,160mm。これは国鉄時代のピッチと同数値で、グレードアップ化の際もシートピッチは変更されませんでした。 大型ハイバックシート・インアームテーブル・フットレスト・簡易高床構造などはかつての「グレードアップあさま」の頃のままです。 肘掛内側にはオーディオパネルが残っていますが、電源は入っていなく非稼動。「あさま」時代には6チャンネルが用意され、 FMラジオのほか「あさま」オリジナルのポピュラー・ジャズ・クラシックなどのプログラムが組まれていました。 荷物棚に設置された「車内販売呼び出しボタン」も残っていますが、黒マジックで文字が塗り潰されるなど、 往年の花形特急からの格落ちを感じさせる「悲哀」漂うワンシーンとなっています。 ちなみに、棚下に装備された読書灯は現在も稼動中です。 特急「あさま」時代からどっしりとした安定感あるシートで、雰囲気も乗り心地もアッパークラスらしさに溢れたシートでした。 このグリーン席に、「中央ライナー」ではグリーン料金700円で乗れるのですから、かなりの乗り得なグリーン車といえます。 |
「グレードアップあさま」編成では、グリーン車のほか指定席となる車両でも大幅なアコモデーションの改善がなされました。 座席はR55系列のフリーストップリクライニングシートに換装され、床面もグリーン車同様にセミハイデッキ構造に。 窓も縦方向に645mmから745mmへと大型化され、グンとワイドな眺望が楽しめるようになりました。 シートピッチは従来の910mmから、中間車が960mm・先頭車(上野方クハ189形)が970mmに広げれられました。 ただ、窓の横幅はそのままだったので、窓の柱に当たってしまう「窓無し席」が1車両に2〜3箇所ほどできてしまいました。 室内の化粧板は全面を張り替え。窓枠はFRP製のものに交換され、窓側に飲み物や小物が置けるようになっています。 天井も蛍光灯カバーと空調カバーが一体となったラインフロータイプとなり、スッキリとした空間になりました。 荷物棚も651系「スーパーひたち」タイプのものに交換され、全席に読書灯も装備されました。 「グレードアップあさま」時代はシートモケットが渋いパープルとグレイシュブルーの2色構成でしたが、 「あずさ」へ転向した際に、「あずさ」車と共通のワイン色とグリーンのモケットに張り替えられました。 現在、この「旧・グレードアップあさま指定席」車両には、やはり「中央ライナー」で乗車することができます。 |
「あさま」では11両編成の車両に「グレードアップ化」改造がなされましたが、 9両編成の車両は、座席の交換・モケット張替えのみに留めた「リフレッシュ」改造がなされました。 こちらも元々は「あさま」の指定席車両ですが、明らかに前述の「グレードアップ指定席」との差は歴然です。 9両編成の指定席には、このようにR55系列シートへの換装・床面の張替えだけが行われ、天井や荷物棚は旧来のまま。 側面窓の大型化やセミハイデッキ化もなされず、あくまでも「リフレッシュ」の域に留めた改造となっています。 シートピッチも910mmのままなので、こちらでは「窓無し席」は発生しませんでした。 現在、この車両は「長野」から信越本線を「直江津」まで走る「妙高」号と愛称の付いた普通電車で乗ることができます。 「妙高」号では1両だけ指定席が設定されていますが、上りと下りでは指定席の号車が変わるので注意が必要。 下りの指定席となる1号車はこの「元・指定席」車となりますが、上り指定席の6号車はR51シートの「元・自由席」車となります。 ちなみに「あさま」時代はシートモケットがブルーパープルの1色設定でしたが、 現在は「旧・グレードアップあずさ」で使われていた、グリーンとブルーの2色モケットとなっていて、 外観ボディのカラーこそアイビーグリーンの「あさま」カラーですが、車内は昔の「あずさ」を髣髴させる、不思議な車両です。 |
かつて「グレードアップあさま」の自由席で活躍していた車両です。 「グレードアップ」編成ではグリーン車・指定席車では大幅なアコモ改善がなされましたが、 自由席は工事内容が簡略化されています。 シートは従来のR51系列のシートをバケット化させて、モケット張替えしたのみに留めています。 天井や化粧板なども交換されずにそのまま。 シートピッチ拡大や窓の大型化も見送られ、通路床面だけが指定席車と同じ模様入りのもので化粧っ気を出しています。 乗客からすると指定料金500円の差で得られる環境の違いは、大変に大きなものでした。 こちらも「あずさ」へ転向した際に、モケットが「あずさ」仕様のものに張り替えられました。 この車両も現在「中央ライナー」で乗車することができます。 |
こちらはかつて、9両編成の「あさま」号で「リフレッシュ」工事を受けた自由席車両です。 自由席に限って言えば、「グレードアップ編成」も「リフレッシュ編成」も同じ程度の改造だったので、 指定席車両のような大きな改造差・居住性の差というものはありませんでした。 「あさま」時代はやはりブルーパープルのモケットでしたが、現在は「旧グレードアップあずさ」のモケットを纏っています。 この車両も現在は「妙高」号に連結されています。 |
「グレードアップあさま」時代の自由席車の面影をよく残しているこの車両。 残念ながら営業運転されている車両ではなく、「碓氷鉄道文化村」で保存されているクハ189のものです。 「グレードアップあさま」の頃のシートモケットを纏った車両は、現在おそらくこの1両だけではないかと思われます。 |
「グレードアップ」編成では、グリーン車の和式トイレが洋式トイレと男性用トイレに改造されました。 それ以外の車両では和式トイレがそのまま継続されましたが、指定席車両では便器交換などでリフレッシュが計られました。 (自由席車両はトイレ工事の手は入らず、従来のアルミ製の、国鉄時代のままの雰囲気が引き継がれました。) 洗面台もグリーン車と指定席車は、センサー式の自動給湯のものとなり、シンク全体が交換され明るいものになりました。 特にグリーン車の洗面台はブラックのシンクで高級感を漂わせ、エアタオルも設置されて大幅に生まれ変わりました。 「リフレッシュ」編成では、グリーン車トイレの洋式化改造が行われました。 洗面台も大半がセンサー式のものになったものの、自由席車は従来のコックをひねるタイプのままで据え置かれていたようです。 |
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グリーン車のデッキには電話コーナーが設けられ、カード式電話が装備されました。 「グレードアップ編成」では画像のような完全な「個室」タイプでしたが。 「リフレッシュ編成」では空いたスペースに電話を設置したオープンタイプでした。 山間部の多い信越本線内では通話不可能な区間がけっこう多かったようです。 |
「1」の画像は中央ライナーで現在も活躍している189系の運転席。 「2」「3」「4」の画像は、碓氷鉄道文化村で保存されているクハ189の運転席です。 実際に座ってみると、運転席はかなり高い位置にあるのが実感できます。 「5」は中央ライナーで撮影。臨時特急「あずさ」などに使われることもあるので、まだ「あずさ」幕が多く残されています。 「6」は碓氷鉄道文化村のクハ189。「あさま」「急行妙高」「そよかぜ」などが往時のままに。 が、驚くべきは剥がれた半分から顔を出した大昔の幕対応表。なんと「とき」「新雪」「白根」「あまぎ」などの文字が!! 「7」はオマケの画像。碓氷鉄道文化村で保存されているEF63-10の運転台の画像です。 189系といえば、やはりEF63とガッチリ手を結んで難所・碓氷峠を越えた名車両としての記憶が鮮烈ですね。 |